第63回 技能実習制度改革はされるのか?

第63回 技能実習制度改革はされるのか?

何ヶ月ぶりかで外国人雇用に関する記事を紹介します。

 

現在、技能実習制度及び特定技能制度見直しに関して、有識者会議にて議論されています。

現行制度が抱える問題の解決に向けて、具体的な方策の検討がなされている事を期待していますが、最終報告書は年末までには取りまとめられる予定です。

 

8月9日の日本経済新聞に『技能実習生、1万2千人所在不明 失踪防止へ転職容認検討』と題した記事が掲載されていました。

外国人材の転職理由として給料の問題があります。「少しでも多く稼ぎたい」という理由で地方から都会へ転職するケースが多いようです。しかし、転職には大きなリスクがあります。そのリスクを冒してでも転職するのには、それなりの理由があるのです。

 

◆ 失踪の事実

技能実習制度で30万人以上の外国人が働いている一方で、2023年4月現在、約1万2千人の所在が不明であることが明らかになりました。

一方、技能実習制度とよく比較される『特定技能』は2021年末に約5万人が在留していましたが、同年の不明者は76人でした。また、2023年2月までに約7,800人が転職しています。これは転職可能な仕組みが失踪を未然に防いでいるとも言えますが、殆どの人は技能実習制度で得た経験をもとに特定技能に移行しているので一概には転職可能な仕組みが解決策になるとは言えません。

 

◆ 失踪者の大多数、不法就労の背景

失踪者の大多数は、生計を立てるためや、来日する際の借金返済のプレッシャーから、不法に働いています。不法就労者は、公的な保障、例えば健康保険や労災補償の対象外となるため、困難な状況になった際に支援を受けることが難しくなります。

当然ながら、この不法就労者を採用する企業側にも責任があります。税金や保険の支払いを逃れるだけでなく、不法就労者の弱い立場を利用して過度に利益を追求するブラック企業が多く放置(?)されているのも原因のひとつです。

経済的な困窮から犯罪に走るケースも多いので、不法就労の抑制は急務です。

 

◆ 技能実習制度の廃止も、解決への道は険しい

政府は技能実習制度を廃止し、新制度での転職の条件を柔軟にする事で失踪者や不法就労者の問題に取り組む方針です。

企業優先の方向性を批判されている「監理団体」についても、より厳しい監視を求める動きがあります。

然しながら、外国人材を受入れる企業が一人当たりのコストを数十万円も負担している現実を考慮すると、完全な転職の自由化実現は難しいのです。

 

◆ 原因の根本は、外国人材の母国にあり

根本的な原因、それは『多額の借金』です。外国人材の母国では、日本で働くために日本語の勉強の費用や、日本へ送り出す『送り出し機関』へ支払う手数料など、多額の費用が必要となります。そのため約半数の外国人材が借金をしており、平均で約55万円との報告がなされています。

国別では、ベトナムの実習生が最も多く68万円余り、次いで、中国のおよそ59万円、カンボジアの57万円余りなどとなっています。中には100万円以上の借金を背負って来日するケースも珍しくありません。

日本の雇用条件が正しく伝えられないため、予定していた手取り額に達しないことが常態化しています。円安の影響で、母国通貨での受取額が減少すると、予定の返済がさらに難しくなります。

高収入を求めて他の職場へ移りたいと考える外国人材も多いのですが、技能実習制度で転職は認められていないので、結果として失踪や不法就労の道を選ぶことになるケースが多くなります。

この多額の借金問題は外国人材の母国の社会構造と密接に関連しており、日本の制度の見直しのみでは、真の解決は困難なので、政府には非常に難しい舵取りが要求されます。

 

人手不足が解決出来、労働者にも企業側にも有益な制度設計を期待したいものです。

次回はベトナムに見る借金の構造について紹介します。