第219回 静かの国 Vs 騒がしの国

第219回 静かの国 Vs 騒がしの国

北京冬季オリンピックが2月20日で終わりましたが、こんなにいろいろと物議をかもしだした大会をライブでこの目で見たということは、私達がある意味での「歴史」の目撃者になったのかもしれません。

 

その中で枝葉末節なことかもしれませんが、オリンピックの女子アイスホッケーで日本対中国の試合の時に「加油!(ジャーヨウ)」の声が沸き起こっているのを見て、昨年の11月のある試合を思いだしました。

 

それは仙台で催されたバスケットワールドカップの予選の日本対中国の試合のことです。

チケットを買ったのが少し遅かったのか購入できた観覧席は、中国チームのベンチに近い上段の場所に座ることになりました。

2連戦の初戦のせいかもしれませんが少し異様な雰囲気なので辺りを見回すと、中国国旗を掲げた人やマスクに国旗をプリントした人もおり、お互い話す時は明らかに中国語と分かる言葉が飛び交っています。

完全アウェーの席に座ってしまったと確信しましたが、始まる前に会場の係員がコロナ禍での試合観戦のルールを身振り手振りで説明しており、中国人メインの観客も大人しく聞いていました。

やがて試合が始まり白熱の攻防の戦いが繰り広げられると、それまで静まり返っていた客席はいきなり沸騰した鍋のようになってしまったのです。

試合の序盤は僅差でしたが、やがて中国チームが主導権をとり始め攻勢を強めると同時に、アウェイの中国人の多い席からは「加油!加油!(フレー!フレー!)」という声援があちこちからかかってきました。

やがて、国旗を振る者、立ち上がって音頭をとる者、あごマスクで絶叫する者などなど、とてもコロナ禍とは思えないくらいの熱気になってしまいました。

 

あまりに飛び交う激しい応援に、私は通路を歩いていた飛沫完全防備装着の気の弱そうな係員につい声をかけてしまいました。

私「声を出しての応援はだめなのに、なぜ注意をしないの?」

気の弱そうな係員「何度か注意したのですが、聞き入れてくれないんです・・」

私「でも、みんな立ち上がってあんなに大声出しているよ。」

気の弱そうな係員「・・・」とうつむく。

私「・・・」と一緒にうつむく。

 

それに引き換え圧倒的に多いはずの日本人が座っている席は、日本チームが攻撃している時でもささやかな拍手だけで、攻められている時でも静かに忍耐とガマンの時間を歯ぎしりしながら過ごしているようでした。

 

試合はやがて最終の第4クオーターを迎え、勝利をほぼ手中にした少数精鋭の応援団はますます燃え盛り、日本の圧倒的な数の静かな応援団は、崖っぷちの意気消沈の極み。

そんな最中に、私の脇の通路を背の高いきびきびした係員の飛沫完全防備女性が、さっそうと最前列に降りて行き、中国人応援席の前で身振り手振りを始めました。

「声を出してはいけない、立ち上がっての応援もいけない、みんなに応援を促してもいけない」となんどもジェスチャーを繰り返し訴えていました。

ところが、上段にいるリーダーもどきの中国人が頑張ってなかなか大声の応援をやめようとしないために、その女性をはじめ数名の係員に囲まれて注意を受ける始末です。

注意された時は少し治まりますが、係員がいなくなるとまた始めるいたちごっこで、私は試合を観戦に来たのか係員Vs応援中国人を観戦に来たのか分からなくなりそうでした。

 

結局試合は完全アウェイの中国チームが、79対63で勝利し、私は観戦しませんでしたが、翌日の第2試合も中国側の圧倒的少数の圧倒的大応援に屈したせいか、106対73で日本チームは完敗してしまいました。

 

北京冬季オリンピックの女子アイスホッケーの試合の様子に戻りますが、もちろんその試合も感染対策のために観客は声を出しての応援を自粛するよう求められていました。

しかし、組織委員会が招待した観客のみが入場できるというスタンドでは、中国の観客が何度も声援を続け、さらには大合唱する場面も頻発したのですが、大会運営側は注意をした様子がありませんでした。

さらに後で知りましたが、場内を盛り上げるBGMとして「保衛黄河」という抗日歌が流れたと中国のニュースで報じられたとのことです。

圧倒的なホームの応援の影響があったのかどうかわかりませんが、試合は残念ながら日本チームは1対1の延長戦の末に、ペナルティーショットで敗れてしまったのです。

 

ちなみに、五輪憲章には、

「競技会場などで政治的宣伝活動を行うことを禁じる」とあります。

 

最近、世界の国々と比べて日本を取り巻く「騒がしの国」に比べて、日本はなんと「静かの国」になってしまったのだろうかと、いろいろな意味で考えてしまったのです。