第205回 雨垂れ石をうがつ 〜「犬も歩けば信号機が倒れる」〜

第205回 雨垂れ石をうがつ 〜「犬も歩けば信号機が倒れる」

新聞で「犬の尿で信号柱倒れる」という記事を見た時に、「雨垂れ石を穿つ」という諺が真っ先に頭に浮かび、そして昭和の脱獄王といわれる白鳥由栄、更に「ショーシャンクの空に」という映画も思いだしました。

これらに共通するのは毎日毎回の積み重ねが、信じられないような「奇跡」を起こすということです。

 

「犬の尿で~」というその記事に載っていたのは、今年の2月に鈴鹿市で耐用年数約50年の信号機が23年しか経っていないのに倒壊したのは、なんと犬のオシッコが原因だったという内容です。

警察の科学捜査研究所が柱の根元の地面を調べたら、同じ交差点にある別の信号機の42倍の尿素が検出されたことが分かり、倒れた信号機は10匹以上の犬の散歩コースになっていて、オス犬たちの「掛けション」で柱の根元が腐食して倒壊したという調査結果になったそうです。

その信号機を建てた頃からなのかわかりませんが、犬たちは春夏秋冬、雨の日も風の日も毎日毎日何年にも渡ってその根元にオシッコをかけ続け、人間が度肝を抜かれるような偉業を成し遂げたのには改めて驚いてしまいましたし、人間への何かしらの警鐘なのではないかと考えてしまいました。

 

次に頭に浮かんだ「白鳥由栄」という人物は、「破獄」というテレビドラマのモデルになった主人公で、青森刑務所、秋田刑務所、網走刑務所、札幌刑務所の4カ所を抜け出すことに成功して「昭和の脱獄王」といわれました。

その白鳥が網走刑務所を脱走する時に何カ月もかけて、鉄格子と手錠にみそ汁を吹き付け破損させて脱獄したエピソードを思いだしました。

今では観光地になっている網走刑務所を数年前に訪れたことがありますが、その中には様々な蝋人形が展示されていました。

その見学の時に通路の上を見上げたら高い天井にふんどし姿の半裸の男が、スパイダーマンのように張り付いているので首をかしげていたら、ガイドさんにその蝋人形は脱獄王白鳥由栄だということを教えられたのです。

白鳥は死刑囚ながら根気強さとその頭の良さに加え、身体の関節を自由に外す、1日に120kmもの距離を走る、更に持ち前の怪力で手錠の鎖を引きちぎるという特異能力があり、生きる時代と方向が違っていればもしかすると大変な活躍をした人物になっていたのかもしれません。

白鳥はその後に模範囚として26年間服役した後の出所後は建設作業員として就労し、1979年71歳の時に心筋梗塞で亡くなり、無縁仏になるところが近所に住んで仲良くしていた当時子供だった女性が引き取り埋葬したそうです。

 

3番目の「ショーシャンクの空の下に」は1994年のアメリカ映画でその年のアカデミー賞では7部門でノミネートされるも無冠でしたが、私の好きな名作の一つです。

内容は冤罪によってショーシャンク刑務所に投獄された銀行員が、腐敗した刑務所の中で数々の奇跡を起こし希望を捨てずに自由を勝ち取るというヒューマン物語です。

その中で主人公のアンディは、密かに手に入れたロックハンマーで20年近く牢獄の分厚い壁を掘り続け、その穴から脱走するという場面を「犬の尿」のニュースを見た時に思いだしてしまったのです。

もちろんこのシーンは映画の一部の出来事で、他の驚くような奇跡が幾つもありますが、長い時間をかけて根気強く計画を成し遂げたということで印象に残っていました。

 

以前にも「継続は力なり」が大事ということで「1.01の法則」など何度かそれに関連したテーマを取り上げたことがありました。

「雨垂れ石を穿つ」と同じような意味の諺は、「塵も積もれば山となる」、「千里の道も一歩から」、「石の上にも三年」、「牛の歩みも千里」などたくさんあります。

まさしく「雨垂れ石を穿つ」の実例が「オシッコ信号機を倒す」であり、もしかすれば後世では「犬も歩けば信号機が倒れる」という新しい諺が作られているかもしれません。