第197回 人生初めての楽器に挑戦 〜音楽とハーモニカ〜

第197回 人生初めての楽器に挑戦 〜音楽とハーモニカ〜

 小学生の頃は音楽が大の苦手で、通信簿の科目音楽に5段階評価で2をもらい、しかもその中の幾つかある項目の中で「よく歌える」という欄に「×」がついていたこともありました。

 それほど音楽は不得意だったので必修であったハーモニカはほとんど吹いた記憶がなく、担当の先生にあきれられてカスタネットを叩いたことの方がよく覚えています。

 しかし、そんな音楽不毛地帯に住んでいる私に10歳の頃に突然の不幸が襲ったのでした。

 クラス対抗の合唱コンクールが校内で開催されることになり、我が学級の指揮者として私が選ばれるというとんでもない事になったのです。

 私が通っていた当時の仙台市立南材木町小学校は、全国小学校合唱大会で優勝やそれに準ずる輝かしい成績をいつも獲得していた、野球でいえば甲子園の常連校のような存在であり、その指導をしていたのが音楽の教師が三浦先生という方だったのです。

 そうなのです、ただ単に私の苗字がその先生と同じだからということで、クラス仲間が面白がって皆で選んだだけなのでした。

 もしかすると、合唱の時にはいつも口パクをしていたのがばれていたのかもしれませんが・・

 先生の指揮する姿などはろくに見てもいなかったし、ましてや音楽や合唱に合わせて指揮をするなど逆立ちしてもできるわけがないと思いました。

 私は天岩戸に閉じこもる照大御神か台所の隅に隠れるゴキブリのように頑なに拒みましたが、先生の説得もあり結局やらざるを得なくなりました。

 私に対する先生の指導は「三角に振りなさい。」というものだけで、練習はほとんどせずに1、2週間後に本番に臨みました。

 模造紙で作った墨を塗った上着をはおり、三浦先生の真似をして伊達眼鏡をかけ指揮棒を持って500人近く体育館にいる同級生を前にうやうやしく礼をしたあと、クラスメートに向かい一心不乱に空中に三角をなぞりましたが記憶はそこまでで、その後に我がクラスがどういう成績だったのか霧のかなたの出来事のように全く覚えていないのです。

 

 その後も音楽の暗黒時代は続き、特にクラシックは大の苦手でした。

 中学生時代の音楽の授業中、騒ぎすぎたために悪友2人と共に担任の教師に宿直室によばれ、「股を開いて歯を食いしばれ!」と厳命され、それと同時に火花が出るようなビンタを食らわせられたこともありました。

 

 そんな音楽アレルギー体質のような青春時代でしたが、食べ物の嗜好が変わるように今では音楽がない世の中は考えられないくらいに毎日のように聴くようになりました。

 

 仙台クラシックフェスティバルには、毎年欠かさず複数のアーティストの演奏や歌声を聴きに行くようになり、好きなクラシック番組も録画して観るようになりました。

 

 その影響もあったのでしょうか、昨年の秋にカルチャー教室の「はじめよう、ハーモニカ」という複音ハーモニカ初級者コースを申し込みました。

 ピアノやバイオリンなどを自由自在に演奏するのは、自分にとっては神業以外の何ものではないと思っていました。

 そこで考えたのが簡単そうでどこでもでき挫折しても諦めがつくのではと、消極的選択でたどり着いたのがハーモニカでしたが、それでも私にとって生まれて初めて挑戦した「楽器」なのです。

 

 ギターやサクスフォンを大人の趣味として習っている知人はいますが、ハーモニカ教室に行っている人は思い当たらないくらいにマイナーな楽器なのかもしれませんが、一念発起してトライすることにしました。

目標は「月の砂漠」と「荒城の月」そして自分の好きな昭和のフォークソングを1曲でもいいから吹けるようになることです。

 

 初級コースは1か月に2時間授業が2回で3か月間、受講生は全員シルバー世代で私も含めて5名、私は5回通い、結局その教室でなんとか吹けるようになった曲は「こいのぼり」と「ふるさと」でした。

その後に初級コースの延長や中級上級演奏など、ステップアップコースもあり他の4名は挑戦した方もいたようです。

 

 私は教室の合間にユーチューブで教えてくれるサイトを探して少し練習していましたし、教室で購入した教本の曲を片っ端から吹いて自分なりにやってみようと思ったのです。

 

 ハーモニカを吹くようになって、気付いたことが諸々ありました。

 1番目は健康に良いということです。

 ハーモニカを吹く前は口の中をきれいにしておく必要があるので、歯を磨く、歯間ブラシを使う、口腔清浄剤でうがいをするので風邪やコロナ対策にも良いような気がします。

 そしてハーモニカは腹式呼吸で演奏するので体全体の運動にもなり、私は肺が少し弱いので吸う吐くことを繰り返すことにより、肺機能を高めることにもなります。

 

 2番目は新たな発見があったということです。

 幼い時に憶えていた童謡やよく知られている曲が、外国で作られたということが楽譜を見て初めて分かりました。

 童謡の「ちょうちょう」はドイツが原曲で「幼いハンス」という古い民謡で子供が成長して立派な大人になる歌、「むすんでひらいて」はフランスの古いオペラが原曲で欧州では讃美歌として歌われているそうです。

 「蛍の光」はスコットランドで別れの歌ではなく旧友との再会の歌、「仰げば尊し」はアメリカが原曲で日本と同じ教育の場での別れの歌ということも知りました。

 

 3番目に知ったのは、簡単だと思っていたハーモニカは意外と難しいということでした。

 黄色の部分は中音部で吹く吸うはひとつおきですが、音符は左から順番には並んでいないのです。

 これには訳が分からなくなり、危なく挫折しそうになりましたが習うより慣れろで何とか乗り切ることができました。 

 ハーモニカは通常の音符ではなく数字譜という独特な表記があり、私はオタマジャクシが苦手ですが案外と演奏しやすかったのです。

 私の練習方法は1曲の楽譜を何度も練習するのではなく、一時間位20曲位を次々に吹くようにしました。

 初めはなかなかうまくできませんでしたが、何度も同じ曲を吹くよりも飽きがこないので長くつづけることができて今でも続けています。

 

 60年ぶりに吹いたハーモニカ、初めて吹けたハーモニカ、音符を吹き吸いしながら今後も息をしている限り、長い付き合いをしようと改めて思いました。