第175回 どこまで進む生体認証技術
どこに出かけてもマスクをしていない人は、珍しいのが当たり前になりました。大正時代には男性の帽子の着用率が90%以上だそうで、それに匹敵するくらいのマスク着用率になったのではないでしょうか。
生体認証技術には様々なアイテムがありますが、その中の一つである顔認証技術は現在大層進歩しており、99.5%の確率で認証できるということです。
10数年位前に東京でのITの見本市に行った時に、顔を写真に撮って年齢を推定できるというシステムに驚いたことを思いだすと夢のような技術です。
そして今や中国ではマスクをしたままでも95%で判別できる技術を確立しており、コロナ予防でマスクしていてもデモ参加でマスクをしていても本人を特定できるそうです。
私が昨年7月に訪れた中国の張家界市は湖南省にあり、コロナ発祥の地?の武漢を省都とする湖北省の南側の隣に位置していました。もう少し遅く当地の旅を計画していたら、おそらく行くことがなかったかもしれません。
ツアーバスで中国のハイウェーを走っていると、少し気になることがありました。時々パッパッと車の前方が光るので、ガイドに尋ねるとドライバーの顔写真を撮っているというのです。
それはスピード違反を取り締まるということではなく、誰がどこにいつ行っているのかを当局が把握するために監視カメラを稼働させているのだそうです。
ガイドは自分たちにはプライバシーというものがないのだと、少し投げやりな風に話していたのが心に残りました。
中国を旅していると常に監視されているのではないかという気持ちになってしまいます。
上海空港では到着するなり顔の写真と両手の指紋を全部撮られ、ツアーの途中には夜中の2時にホテルにチェックインしたのですが、フロントでまたも念入りに顔写真と指紋を照合されたりもしました。
「天網」と呼ばれる中国の監視カメラのシステムは、犯罪や交通違反などを見つけ出すと直ちに関係当局にその事案が伝えられるということです。例えば、横断禁止の道路で違反すると、本人が家に帰るころには警察が駆けつけて検挙するということもあるというから空恐ろしくなります。
中国では2020年には監視カメラを6億台以上、2022年には28億台を設置するという計画があります。AIと組み合わせたその巨大ネットワークは、マスクをしてもサングラスをしていても、たちどころに個人の5W1Hの情報を掴んでしまうかもしれません。
それは現在、世界で開発が進められている「歩容(ほよう)認証」という技術を取り入れることによっても可能かもしれません。
歩容認証とは人の歩く姿で個人を特定するという技術です。人が歩く時の歩幅や腕の振りや姿勢などにはそれぞれの個性があり、その映像をもとに検証すると的中率は96%以上にもなるそうです。
警察庁は2013年にそのシステムを試験導入、数十件の鑑定を実施して裁判で証拠として採用されています。
以前に銀座で起きた4000万円分の金塊を奪われた路上強盗事件、防犯カメラに映っていたマスクやヘルメット姿の男3人の逮捕にも歩容認証が活躍したようです。
この他にも生体認証には、昔からの指紋認証、血液や唾液などのDNA型鑑定、声紋認証、手のひらや指の静脈認証、眼の網膜認証や虹彩認証などがあります。その他にも耳の形状から判断する耳認証や体臭認証、まばたき認証というのもあるそうで、ロボットでない限り本人特定はだれでも逃れることは難しくなりそうです。
今やスマートフォンでも、指紋認証は当たり前で3Dの顔認証や虹彩認証も組み合わせた高度な技術も出ていて、その進化はとどまることがありません。
近い将来には初めて会った人が、どこの誰かも瞬時にわかってしまうようになるかもしれません。
そして私達はマイナンバーカードや免許証、保険証、パスポート、クレッジットカードなど持たなくとも生体認証だけで、すべてのことができるようになると思います。
それが良い事なのかそうではないのかは、なかなか難しいですがそんな時代は確実に来るのは間違いないでしょう。