第171回 桜の花が咲く音 〜オノマトペとは?〜
近所の名所の枝垂れ桜も満開になり、その薄紅色は例年以上にあざやさが増していました。
「桜はパッと咲き、ハラハラと散っていく」というと、潔くとか、世の無常とか、メリハリがあるとかいろいろと考えてしまいます。
これらの「パッ」とか「ハラハラ」とは擬態語といって、世界では日本語に使われることが一番多いそうです。その為に、より繊細な情報が相手に伝わり、それが日本特有の以心伝心になっていたのかもしれません。
フランス語でこのような言葉を「オノマトペ」というそうですが、私は最初それを日本語だと思っていましたが、なぜか日本の専門家は擬態語よりもその言葉を使っている方が多いようです。
「パッ」や「ハラハラ」を使わないで同じように表現することは、大変に難しいですが試しにそれらを使わないで前記の文章を表現してみました。
「桜は一瞬に開花し、その花はやがて次々とゆっくり舞いながら散っていく」
どちらの表現が分かり易いかというと、やはりオノマトペを使った方が一瞬でその情景が頭に浮かびます。
正確にはオノマトペとは擬態語と擬音語の総称で、擬態語は音のしないものの様子を表し、擬音語は動物の鳴き声や物が音を立てた時を表すようです。
日本に来た外国人が困ることのひとつに、病気をして病院での受診時に医者に自分の様態がうまく伝えられないということがあるそうです。仕事がらで会社のスタッフが外国人を連れて病院に行く時がありますが、英語で少しコミュニケーションができても微妙なところが難しいようです。
例えば、
「胃が時々シクシク痛くなる」
この場合キリキリでもムカムカでもないので、処方する薬が違うかもしれません。
さらにもう少し複雑になって、
「昨日の朝、頭がクラクラして目が回り、あまりフラフラするので横になりましたが、そのうちにズキズキするようになり今日は頭がガンガンして痛いのです。」という症状の場合に日本人であれば医者もすぐわかりますが、外国人だとかなり診断が難しいでしょう。
会社での事例を取り上げてみました。
「部下がへまをしたので注意したら、謝りながらも少し笑っていた」とします。
その部下の「笑い」が次のようであったのならどうでしょうか?
A. ニッコリ B. ニンマリ C. ニヤニヤ D. ヘラヘラ
次のように当てはめてみて下さい。
例えばAの場合、
「部下がへまをしたので注意したら、謝りながらも少しニッコリ笑っていた」
その時の予想される上司の反応をオノマトペで記してみました。
ニッコリ 失敗したことを素直に認めながらの照れ隠し
上司の反応 ニコニコ
ニンマリ 照れ隠しだが少し含みがある
上司の反応 ムッツリ
ニヤニヤ 誤っていても別の魂胆がありそう
上司の反応 イライラ
ヘラヘラ 口先だけで誤っているが又繰り返しそう
上司の反応 ワナワナ
同じ笑いでも幾つものオノマトペがあり、その種類は受け取る側の上司の気持ちにも左右されるのかもしれません。
食べる時のオノマトペは数多くあります。
ご飯やおかずを食べる時は、うまそうにパクパク、味はそっちのけでバクバク、腹が空きすぎてガツガツなどとすぐにわかります。
その他にもムシャムシャ、モグモグ、モシャモシャ、サクサクなどがあり、サラサラはお茶漬けと決め打ちできそうです。
そばうどんは、ツルツル、スルスル、ズルズルは定番で、モソモソ食べる外国人には顔をしかめられますが、日本人には絶対欠かせない音です。
飲み物はゴクゴク、コクコク、ガブガブ、チューチュー、ズズーッで、犬猫の場合はペロペロ、ピチャピチャ、ペチャペチャですが、人間もたまにはそういう飲み方をする人がいます。
酒になるとキューッ、グビグビ、チビチビもありですが、ガブガブ飲み過ぎるとベロンベロンやグデングデンになるので気を付けなければなりません。
お菓子類はオノマトペによってどういう種類か想像してみるのも面白いでしょう。
カリカリ、ポリポリ、ボリボリ、ザクザク、サクサク、バリバリ、パリパリ
最近では外国人と接する機会が多いと思いますが、コミュニケーションが苦手といわれる日本人でもオノマトペを駆使すれば上手になるかもしれませんので、うまく使って国際親善に役立ててみるのも良いのではないでしょうか。