第168回 新製品・新技術・新規事業 〜朝ドラで考えた・・・〜

第168回 新製品・新技術・新規事業 〜朝ドラで考えた・・・〜

 NHKの朝ドラを毎日欠かさず見ることが、ここ数年の習慣になってしまいました。

 

 2018年に放映された「まんぷく」は、最近の番組の中では特に秀逸の内容で、毎回主人公の立花萬平の新製品・新技術・新事業にかける一心不乱さと、昭和時代の経営者の見本のような人物像は毎朝見ていても飽きさせない内容でした。

 

 そのモデルになった安藤百福の生涯は「事実は小説より奇なり」のことわざ通りに、テレビの主人公に輪をかけた波乱万丈の人生であり、そのあきらめない精神は現代の我々にとっても参考になるのではないでしょうか。

 

 その番組を見ながら30年近く前にラーメン店を始めた当時を思い出しました。フランチャイズチェーンのラーメン店を、ある事情があり経営することになりましたが、なにしろ本業の製造業のかたわらなので店には毎日行くことができません。

 店の運営は店長に任せましたがなかなか思うように売り上げが上がらず、本業が休みや仕事の合間には必ず店に行って販促のためのイベントやメニューを考えたりしたのです。

 

 そのFCの本部は九州でしたのでスープが豚骨メインのために、地元では当時はあまり馴染みがなく、その対策として本部のメニュー以外のラーメンも提供することにしました。

 地元の材料を使った味噌ラーメン、本部の材料と独自の調味料をミックスした醤油ラーメン、見た目は真っ赤でもほとんど辛くないレッドラーメン、当時は珍しかった野菜たっぷりラーメンなどのラインナップの充実、飲茶や各種のラーメンセットなどのメニューも本部の了解を受けチャレンジしていきました。

 

 紆余曲折はありましたが少しずつ経営も安定して、なんとか23年間営業を続けることができましたが、私の本業の引退と同じ時期にその店を本部と話し合い、負債もなく無事に卒業することができました。

 

 全く違う業界での二足のわらじを履きながらも、ヒト、モノ、カネや5SやPDCAなどの違いに当惑しつつ、異業種を同時にやってみて経営の参考なることも多かったことが自分にとっての収穫でした。

 

 安藤百福の話題に戻りますが、彼は1910年に台湾に生まれ、その後日本ではいろいろな事業を試行錯誤しながら立ち上げました。ただ安藤の場合は、財閥のようにその事業を継続してやるのではなく、立ち上げと終息を繰り返しながら最終的には日清食品の創業者となったのでした。

 20歳代の初めはメリヤスの繊維工場を稼働させ、そして蚕糸とヒマシ油の生産、太平洋戦争の開戦後には幻灯機、炭製造、バラック事業などを次から次へと手掛けました。

 戦時中に航空機エンジン部品を製造していた時には、資材の横流しを疑われ憲兵に逮捕拷問もされてしまったのです。

 終戦後は、製塩事業や栄養食品「ビセイクル」の開発販売を漕ぎ着けながら技術学校も開校しましたが、GHQに脱税容疑をかけられ巣鴨刑務所に2年間も収監されるというとんでもない経験もしました。

 ようやく無実の証しが立ち釈放された後に請われてある信用組合の理事長になるも、破綻してしまい1957年には全くの無一文になってしまいました。

 ところが、安藤はすぐさまに以前より温めていた即席麺の開発を再開し、翌年1958年8月にはそれを完成させ、チキンラーメンとして売り出したのです。その後も開発の手を緩めず、1971年61歳の安藤は容器入りの画期的なラーメンのカップヌードルを世に出すことに成功したのです。

 

 やがて「ミスターヌードル」と世界で言われるようになった安藤百福は、96歳でゴルフ場を18ホール回った3日後の2007年1月5日に急逝し、生涯現役を全うしたのでした。

 

 将来のノーベル賞クラスに並ぶような研究は、とことん追求し長い年月を費やすことも必要なのでしょう。反対に新しい技術や製品や事業を、経営者が自分のレーダーを広く高く掲げ時代の流れを読み取りながら進めていくことも当然でしょう。

 

 そのうえで成功する経営者、できる経営者は二通りあると私は考えています。

 

 一つ目のタイプは天才型の経営者で、将棋の名人のように何十手先も読み先を常に予想しながら事業を進めていく人です。そういう経営者はひらめきがことごとく当たり、やることなすことほとんどがうまくいくことが多く、まるで森羅万象のすべてを味方にしたようなタイプです。

 二つ目のタイプ、自分自身を平凡な人間と自覚している経営者です。自分の周りに様々な才能を発揮してくれる人が何人もいて、その人達が自分の考えや目標を一緒に具現化してくれるのです。人間的に魅力のあることが、このタイプに多いのではないでしょうか。

 

 「まんぷく」の4年前に放映された「マッサン」という朝ドラは、ニッカウヰスキーを創業した竹鶴政孝の物語で、このドラマも目が離せない番組でした。

 安藤の道のりとは違っていたのは、竹鶴の場合は国産ウィスキーの製造を生涯通して目標に掲げて達成したことでしたが、「やり遂げるのだ」というその強靭な精神は、やはり脱帽してしまいます。

 

 「まんぷく」も「マッサン」もそれらの新製品、新技術、新規事業は、創業者の強い意志と共にその太陽のような主人公を取り巻く惑星のような素晴らしい人達の支えで、成功し花開いたのではないかと思ったのです・・