第158回 中国秘境奇行 〜絶景よりも人で驚いた!〜

第158回 中国秘境奇行 〜絶景よりも人で驚いた!〜

 日本人は世界各国のどこにでもいるというが、4泊5日のツアーで訪れた中国の旅ではその姿をほとんど見かけることがなかった。そして、中国特有?の開いた口がふさがらない人々の様子まで体験することができた。

 

 その地は湖南省にある張家界市、日本では湖南省は毛沢東の出身地や湖南料理で知られている程度だが、映画アバターの風景のモデルになったといわれる奇景奇岩をこの目で見ようと結構きつい寝不足のツアーに参加したのである。

 

 現地のガイドの趙さん(仮名)に「張家界は国内外から1500万人の観光客が来るね。でも去年ここに来た日本人は3000人だけよ。今年は1万人位かな。少ないからもっと来てほしいね。」と切に要望された。計算してみたら、日本人が全観光客に占める割合はなんと0.02%と定期預金金利の2倍しかないほど低い値である。

 そこで私は「湖南省だから、日本人は来なんしょう!」とつい駄洒落を飛ばしたのだが、趙さんは訳の分からない顔をしていたのが、少し残念であった。

 ちなみに、日本人に会ったのは武陵源の出発地にある公園で、「日本人ですか?」と尋ねられ「そうです」といったら「私たちは徳島から来た23人のツアーで、初めて日本の人に会いましたよ。」と懐かしそうに言われた。確かに今回のツアーで同胞を見かけたのは、それが最初で最後であった。

 

 旅の見どころはさすが世界遺産大国の中国だけにたくさんあり、以下に列挙してみると、世界一の7455メートルという長さの天門山ロープウェー、断崖絶壁に張り出したガラス張りの空中桟道、山の中をくり抜いた7,8回乗り換える長い長いエスカレーター、高さ130メートル幅60メートルの天門洞から降りる999段の急階段、崖にへばりついた高さ326メートルの百龍エレベーター、野外の舞台に600人が出演する天門狐仙山水ショー、異世界に来たような超絶景の武陵源、そして高さ300メートルにかかる長さ430メートルの張家界大峡谷ガラス橋等々。

 ただ、ここで気になったのは、自然の景色に手を加えた人口の構造物、それも現代に作られたものが圧倒的に多いということであった。

 

 自然の景色や歴史的な建造物などは旅の楽しみのひとつであるが、異国で出会う人々とのコミュニケーションもそれに劣らない旅のエッセンスである。しかし、今回はその「ヒト」に関することで改めて中国での人間関係が、いかに大変であるということが実感することができた。

 

 ガイド氏によると、中国では国内旅行は50歳未満が推奨され、年寄りは怪我をしやすいのであまり旅をするなという風潮があるという。そのせいか、どこに行っても元気いっぱいの中国人が多くて押し合いへし合い阿鼻叫喚地獄であった。

 

 今回は乗り合いバスを利用する機会が多かったが、ロープウェーを降りた後に乗り継ぐため中国人も含め一応順序良く並んでいたらバスが停留所に止まるや否や、どこからともなく母娘がバスの乗り口に走りこんできた。それをきっかけとしてバスに人の波が殺到し車内は譲り合いどころか、戦国時代のように群雄割拠のありさまである。

 若く屈強な客ほど椅子を占領し、自分の子供最優先で窓を向かせて座らせ、日本人の年配のツアー客はほとんど全員ギュウギュウ詰めの社内で、悪路とカーブの連続の道を吊革に必死で掴まりながら汗まみれの道中となった。

 彼らには敬老の精神などみじんもなく、年寄りを労わるどころか痛めつけるのではと思う位で、「なるほど、こういうことで国内旅行では、年配者は怪我をする危険があるのだなあ」と妙に納得してしまった。

 

 マナーがあまり良くないというのは、聞いていたがその現実を目の前にして目が点になってしまった。

 ロープウェーの待合場所でのことである。そこの床はピカピカに磨かれ、トイレもあまり汚れておらず用を足して出てきたら、その近くにあるステンレスの筒状のごみ入れの上に2,3歳くらいの子供が親に抱えられ乗っていた。おもむろにその親は子供のパンツを脱がせその中に小用をさせ始めたのである。辺りには観光客も大勢居り、気がついた同じツアー客は顔をしかめていたが、中国人たちは注意するでもなく平然としていたのには更に驚いてしまった。

 

 同行した妻が女子トイレから戻ってきて、そこで体験した出来事に言葉を失ってしまったと言っていた。

大勢で並んでいたら、トイレのドアが開き中から大人の女性が二人出てきたというのだ。ただでさえ狭いトイレでなぜ二人一緒に入っていたのか、その理由がわからなかったという。そして追い打ちのように、開いたそのドアめがけてどこに潜んでいたのか並んでいなかった中年の女が、脱兎のごとく駆け込んできて入っていったのには仰天してしまったそうだ。

 

 世界遺産にもなっている武陵源などでは、静寂荘厳の仙界のような雰囲気を期待していたのだが、観光客があまりにも多くどこに行っても日本の初詣の混雑のように人だらけであった。一歩間違えば人間なだれが起こってもおかしくないのではと思ってしまった。

 中国の他の地方から来た観光客はほとんどが団体客で、その先頭に立つガイドがメガホンを片手に説明しており、その音量がやたらと大ボリュームでとにかく騒々しい。こちらの団体、あちらの団体、そちらの団体とハウリングしたような音と音とが重なり合い、まるでロックのライブ会場にでもいるようで頭が痛くなってしまった。

 

 天門狐仙山水ショーという一大抒情詩のスペクタクルミュージカルを観劇したのだが、そこでも舞台の展開に構わず後ろの中国人グループが、カップ麺の音を立てて食うわ、1時間も大声で喋りまくるわ、スマホで大声で話すわ、椅子の背中を蹴るわと、日本の映画館であれば即退場という行為を延々とやっていた。おまけにクライマックスのシーンの時に気に食わないのか、席を立っていなくなってしまった。

 

 だいぶ長くなってしまったので今回はこれで終了となるが、成田空港に帰ってきた時には、なんと日本は静寂な国なのだなあと心から思ってしまったのである。(続く予定・・)