第156回 北陸で出会った絶品ガニ 〜ズワイガニに見たブランド化〜

第156回 北陸で出会った絶品ガニ 〜ズワイガニに見たブランド化〜

 先日北陸地方に行ってきた時に、「ブランド」ということの重要性をカニから学ぶことができました。

 

 小旅行の最終日には金沢では20数年ぶりに知人と会い、現況や昔の思い出話などを名物の料理を肴にしながら楽しい時間を過ごしてきました。

 その話の中で知人に「カノガニは食べたげん?」と訊かれたので、私は「カノガニとはどんなカニなの?」と言い返しました。

 「石川県ではズワイガニのことをそういうとるがね」との返事、当地が加賀藩と能登半島なのでそこで採れたズワイガニを「加能ガニ」というのだそうです。

 

 前日に福井県の三国温泉の民宿に泊まり、解禁になったばかりの「越前ガニ」を堪能したので、てっきり北陸地方ではズワイガニのことをそう呼ぶのかなと思っていました。

 そこで、その知人の話しや「越前ガニミュージアム」などで見聞きした事を思いだしながらいろいろと調べてみたら、ズワイガニのブランディングは地方によってだいぶ格差がついていることを知ったのです。

 

 北陸地方で採れるズワイガニでなんといっても一番有名なのが、「越前ガニ」です。ズワイガニというとまず越前ガニが頭に浮かび、そして人によっては越前ガニをカニのひとつの種類と誤解している人もいるようですが、福井県で採れたズワイガニの雄だけを「越前ガニ」といっています。

 越前ガニは明治時代に皇室に献上したというほどの歴史があるので、そのブランド力はなかなかに強烈です。さらに、11月6日から翌年3月20日までの期間以外は、完全に禁漁としていることもその価値を高めています。

 そして、越前ガニの中でも年にコンマ数パーセントしか捕れない、「極 きわみ」という重さが1.3kg以上、甲羅の幅14.5cm以上、爪の幅3cm以上の超高価なカニはまさしくカニ界のルイビトンかロレックスのようであります。その価格は10万円以上もしているようで、「極」という黄色のタグがカニの足に燦然と勲章のように輝いています。

 

 さらに越前ガニのメスは「せいこガニ」といわれており、漁期はさらに短く11月6日から12月31日までの2ヶ月弱で、今回の旅ではそれを食することもできました。大きさは雄ガニの3分の1、それでもカニ味噌や卵巣の朱色の内子やキャビアのような色をした受精卵の外子など、その絶品の味わいと食感は感動するほどでした。なにしろその美味しさは、カニ味噌が全く苦手で食べられなかった妻も残さず食べていたほどです。

 

 山陰地方ではズワイガニの雄のことを「松葉ガニ」というブランド名で出荷しており、兵庫県、鳥取県、島根県、京都府では「柴山ガニ」や「間人(たいざ)ガニ」などとさらにブランドを細分化しているようで、そこまでやると訳が分からなくなりそうです。

 

 ズワイガニ漁解禁翌日のニュースで「鳥取港で7日の初セリで500万円の値で競り落とされたというズワイガニ・・」という報道に驚かされました。

 世界最高価格のこのカニは、鳥取の「五輝星(いつきぼし)」というブランド名が付いており、そのハサミについているタグの黒地に金色の文字が誇らしげに見えました。

 

 我が郷土の宮城県でもブランドとしては、コメの「だて正夢」や玄米食向けの「金のいぶき」、石巻魚市場で水揚げされて厳格な基準を満たした「金華さば」、県水産技術総合センターで開発した魚体が通常よりも3倍ある雌の「伊達いわな」等々があります。

 

 これらを食してみると確かにうまさが際立っているので、後は「越前ガニ」のような超強力なブランドになるようにその手法も見倣い乍ら、それを育てる施策が必要なのではと改めて考えてしまいました。