第152回 異国泥棒体験 〜ダンボール少女など〜

第152回 異国泥棒体験 〜ダンボール少女など〜

 海外旅行に行かれる方は多いと思う。私は今でも旅が大好きで国内外に出かけるが、その時に体験や見聞きした特に外国のドロボー事情についてご紹介する。

 日本と違って外国はそういう被害にあわないように用心レベルのスイッチを何段か上げなければならないので、少しでもその参考になればと思う次第である。

 

イタリアのぼったくり酒場

 初めてイタリアのローマを訪れた時に、その悲惨な状況に巻き込まれた人に出会った。トレビの泉の近くの広場で休んでいたところ、OさんとYさんという方達に話しかけられ、私は一人旅のバックパーカー4ヶ月目で、だいぶ旅に慣れてきたように見られたのかその話を聞かされたのだ。

 事情を聞くと、Oさんはパリフリータイム10日間というLOOKツアーでフランスに来て、せっかくだからとイタリアも廻ってみようと一人でローマに来たのだ。その着いた日に街でドイツ人だという旅行者と知り合い、3時間くらい一緒に見物しているうちに意気投合しビールを飲みに行くことになった。

 その酒場では30分くらいでビールを1本だけ飲んで勘定をすることになったら、なんと一人300ドルを請求されて青くなってしまった。最初は拒否したらしいが、強面のお兄さんに散々脅かされて怖くなり払ってしまった。やがてそのドイツ人もグルと気付いたのだが後の祭りで、その酒場には行きも帰りもタクシーだったらしく、どこの場所だったかもわからないという。

 彼はなけなしの金をほとんど全部とられてしまい、パリに戻る旅費も無くなってしまった。当時の300ドルというと8万円位で、大卒の初任給よりも大きい金額である。

 なんとか日本大使館を探して行ったのだが日曜日で閉まっており、しょんぼりして歩いているところをYさんに声をかけられたのだ。

 Yさんは40才位の方、仕事でイタリアを訪れていたそうで、200ドル用立ててもらった。その直後に私と遭遇し、なにか他にもいい知恵がないかということで声をかけたということらしい。

 残念ながら私からは通り一遍のアドバイスしかできなかったが、同じ日本人と話ができたということでOさんはだいぶ落ち着き、その日はYさんのホテルの部屋に泊まることができた。

 当時のイタリアは「泥棒天国」とよばれ、同じバックパーカーの「被害者」からも前記のような「ぼったくりバー」やユースホステルや汽車の中で金銭をとられたという話しは何度も聞かされていた。当時のツアー客でない日本人旅行者の半分以上はそういう経験をしているらしかったが、幸い私は5ヶ月間の旅の間に直接の被害は一度もなかった。

 

イタリアの段ボール少女

 世界屈指の観光地であり世界屈指のすり置き引きのメッカであるローマに再訪したある日のこと、「ローマの休日」で有名なスペイン広場で「段ボール少女」に遭遇したのだ。

 ツアーの自由行動ということで私たち夫婦は、スペイン広場にある130段の階段を登り少し息が上がり一休みしていたら、

 高校生くらいの可愛い少女二人が私の方に近づいてきた。そのうちに彼女の一人が異常接近し駅弁の台のようにした段ボールを私にくっつけてきた、とたんに「危ない‼ 泥棒‼」とそばで妻が叫び声をあげた。あわてて見るとその少女はカモフラージュの段ボールの下から手を伸ばし、私のショルダーバックのファスナーを開けようとしていたのだ。私は「こらっ‼」と大声を出しながらカメラで彼女らに向けて写真を構えたら、何事か言い訳がましいことを口にしながら顔を隠して脱兎のごとく逃げ去ってしまった。

 実はツアーの添乗員には、「このスペイン広場には段ボール少女というひったくりがうろついているので注意してください」との説明があったのだが、まさか本当に遭遇するとは思わなかった。その時は驚いた気持ちと、不謹慎だが沖縄のヤンバルクイナにでも出会ったような気分にもなったのであった。

 

モロッコのかっぱらい

 やはりバックパーカーをしていた頃、モロッコのサハラ砂漠北端のオアシス都市マラケシュからカサブランカへ向かう夜行列車を利用した時のこと。私は節約のために3等列車に乗ったのだが、4人掛けの座席は座っていることはおろか眠るために横になっても体が痛くなるオール木製。その真夜中、寝苦しくて何度も体を動かしていたら突然大騒ぎする声が聞こえた。寝るまで私と少し談笑していた若いフランス人のカップルだ。

 ウトウトしていたら途中に知り合ったモロッコ人の男にリュックを盗られたのに気づき、追いかけたのだが汽車から飛び降りて逃げていったという。汽車がカーブに差し掛かったらしくスピードが落ちた時を狙ってことに及んだのだ。そのカップルはそのかっぱらいを友達と信じていたのにと大変に落胆していた。

 それでも、以前に知り合った日本人のバックパーカーがモロッコでひったくりに抵抗したら、手のひらをナイフでずぶりと刺されたということを聞いていたので、怪我をしなかっただけ不幸中の幸いと思った。

 

 21世紀に入り、その他にもニュージーランドの果物屋での中国人の万引きや、ノルウェーでの日本からの添乗員のバスでの置き引き事件を目の前で体験?したこともあった。

 

 フィリピンでは取引先の現地駐在の日本人が自宅近くで強盗に出くわし抵抗したら、腕を刺されたという事件もあった。被害者の駐在員は日本での治療後に再度フィリピン勤務を希望したという強者であったのには驚いてしまった。

 

 いずれにしても日本と違い海外の事故と事件は自己責任、そしてケガをしてもモノやお金をとられても、ほとんどが泣き寝入りになってしまうので、それなりの事前対策と心構えは必須である。

 

 それでも、海外の旅は日本では味わえぬ体験ができるので、やめられないのは私だけではないはずである。