第140回 種子島秘話 〜ロケットと鉄砲伝来〜
ロケットの打ち上げが見たくてたまらず、今年の春に種子島に行ってきました。
打ち上げの瞬間に立ち会うのはなかなか難しいので、せめて実物や発射場をこの目で直に見ることが一番の目的でした。
ところが、ロケット関係の他に種子島で思いもかけない鉄砲伝来の歴史にまつわる出来事を知ることになりました。
種子島空港に到着したその日はあいにくの曇り空でしたが、見学についてはJAXAのOBの方が懇切丁寧に案内していただいたおかげで、なかなか難しい内容も理解することができました。
種子島宇宙センターは、種子島の東南端の海岸線に面 した総面積970万平方メートルの日本最大のロケット発射場で、多数ある施設の中で始めに訪れたのは、リゾート地のような海岸沿いの敷地にある宇宙科学技術館でした。
この施設は「宇宙と地球がつながる瞬間をもっとも身近に感じられる種子島ならで はの”生きた場所”」という説明のとおりに、打ち上げを臨場体験できる映像と大音響のシアターや実物のロケットの部品や模型、開発の歴史、宇宙飛行士の紹介など興味を惹かれる展示が目白押しで時間が足りないほどでした。
JAXAの方の案内でしか行けないのが、ロケットガレージでした。ここではHIIロケット7号機の実物が、圧倒的な大きさと迫力で「本物」のすごさを実感することができました。
このHIIロケットは、以前に打ち上げに失敗し海から回収したものを再度整備組立したとのことでした。その回収が可能になったのは、ロケットの各部品に発信機が付けてあったからなのだそうです。その失敗が無かったらこの実物は見られなかったという、少し内緒の話しも聞くことができました。
また、発射場の中には大型ロケットの組立棟があり、81mの高さの建物には世界1という1枚扉がバスの中からでしたが確認できました。
最後に案内された管総合司令棟は、予想よりもだいぶコンパクトな部屋にコントロールルームがあり、テレビで見て想像したよりも違ったので少し戸惑いましたが、このスペースで壮大なプロジェクトを推し進めていくというのは本当に素晴らしいと思ったのです。
最後に眺めた宇宙ヶ丘公園からは、遠方からではありますが発射場全体を見渡せ、改めて宇宙開発の素晴らしさに感銘するとともに日本の技術力の向上を願いました。
種子島は宇宙開発の中心地と同時に鉄砲伝来という歴史で知られており、歴所教科書ではその伝来の年が1543年ということを「鉄砲伝来、以後予算 (1543)増える」とおぼえた人は多いでしょう。
島内には「種子島開発総合センター鉄砲館」という施設があり、種子島の自然や鉄砲の歴史や国産第1号の火縄銃や古式銃を多数展示してありました。
「鉄砲館」の入り口を入るとすぐ左側に骨格が展示され、それは「牛馬(ウシウマ)」という珍しい馬で、種子島だけで飼育されていました。
この馬牛は、体毛や尾の毛が極端に少なく、牛に似ていることから「ウシウマ」と呼ばれ驚くほど長寿だったそうです。
しかし、昭和6 年に「珍獣」として県指定の天然記念物となりましたが、もともと個体が少ないうえに太平洋戦争中に食用にされ、昭和21年に絶滅してしまいました。
鉄砲館ではその鉄砲伝来の歴史の陰に隠れていた、ある興味深い物語を知ることができました。
1943年に中国の船が種子島漂着し、その中にポルトガル人が乗っていて「鉄砲」という日本人が見たことも聞いたこともない武器を持っていました。それを島の領主の種子島時堯(ときたか)が手に入れ、やがて国内でも多く作られるようになり戦争に使われたというのが歴史上のことですが、それを作るまでには相当の苦労があったようです。
種子島時堯にポルトガル人から譲り受けた鉄砲と同じものを作るようにと、命ぜられたのが鉄砲鍛冶の八板金兵衛でした。金兵衛は毎日のように朝早くから夜遅くまで鉄砲作りに励みましたが、なかなか完成させることができません。特に筒底に取り付けるネジがうまく作れず、娘の若狭はやせ衰えていく父の姿に心を痛めていました。
「私がお手伝いできることは何かありませんか?」と若狭が見かねて父に訴えたところ、「ポルトガル人からお前の娘を嫁にもらえばその部品の作り方を教える」と苦しそうに話したのでした。
領主からの命令は絶対なので、ついに若狭はポルトガル人に嫁ぐことになり、その見返りとして鉄砲は完成したのです。
八板金兵衛は日本人として初めての鉄砲を作った職人ということになり、領主からは大いに褒められました。
しかし、若狭はその1年後に辛労がたたり、故郷の地を懐かしみながら病死してしまったそうです。
このように鉄砲伝来には1人の女性の悲しい物語があったのですが、ちなみに若狭は日本人で初めての国際結婚した女性ともいわれています。
種子島は日本での初めての鉄砲伝来の地ですが、日本の最先端のロケットの打ち上げを若狭が天国からいつも見守っているのかなと、この話を知って少しだけセンチになってしまいました。