第123回 「稼ぎ」について考える 〜世界の金持ちは豆腐屋?〜

第123回 「稼ぎ」について考える 〜世界の金持ちは豆腐屋?〜

 Mr.Ghosn(ゴーン)はフランスでは現地の社員から、「常に従業員により多くを求めながら、常に自分がより多くを手にしている」と言われているという。つまり、経営トップが社員に「稼げ!稼げ!」と言いながら、自分は楽をしているのに高額の報酬をもらっているという意味なのだろう。

 上に立つものは率先垂範で仕事をやることによって、それなりの果実を手にするのだがその論は別の機会にするとして、今回はその「稼ぎ」いわゆる労働生産性(付加価値)について考えてみた。

 

 働き方改革の影響か、日本は2017年にOECD(経済協力開発機構)36カ国中に何番目になるかが頻繁に報道されていたが、その要約は下記のとおりである。

 

1. 時間当たりの労働生産性は、47.5ドルで20位

2. 1人当たりの労働生産性は、84,027ドルで21位

3. 製造業の労働生産性は、99,215ドルで15位

 

 これらの報道では、日本の順位がいかにも最近下がったという印象を受けるが、「時間当たり」については1980年が19位でそれ以降は現在まで20位に鎮座している。「1人当たり」も1980年は20位で同様である。

 しかし、3番目の「製造業」については1995年と2000年は8万円台で1位であったが、2005年8位、2010年11位、2016年が15位と右肩下がりに急落してしまった。ただその金額はわずかに上がっているのだが、他の国が急激に改善しているために日本だけが取り残されたようになってしまった。

 製造業以外の第3次産業でも金融業や運輸業、卸売小売業、飲食宿泊業はアメリカと比べてみると50%とかなり生産性が低く、農林水産業に至っては5%と桁違いの低さである。

 低い原因としては、日本固有の働き方や値下げ競争やデフレ等々とエコノミストが提唱しているが、その要因の一つとして高齢化も加えたいと思う。日本では現在65歳以上で働いている人達の全就業者に占める割合は23%であり、世界順位では8位、そして上位7カ国はすべて日本よりも労働生産性が下位に位置している。やはり40歳をピークに高齢者になると生産性が下がるが、日本の平均年齢が47歳なので当然そういう結果になってしまう。

 2100年には明治時代と同じ位の3770万人の人口になってしまう日本、100年間で9000万人も減少し高齢化率が40%を超えてしまう日本、そういう日本は世界でどのような立ち位置になってしまうのか、自分はその時には存在しないのだがほんの少しだけ心配になる。

 その解決策は政治家に任せるとして、企業の労働生産性について少し考えてみたい。労働生産性は一般的には次のような式になる。

 

 労働生産性=付加価値/労働者数又は労働時間

 

 付加価値とは、生産金額から材料費や仕入れや外注費を除いた数字であり、私は製造業時代にはその解釈を少し変え、「加工高工数売上」と称して、会社の各ラインの生産効率の目標数値としていた。

それは1日の労働時間を8時間としてそれを1工数とし、1工数当たりの売り上げを「加工高工数売上目標」に設定する。

 

例えば、ある月のあるラインの売上が650万円、加工高工数売上目標4万2千円とする。

人員4名、20日稼働、残業80時間、原材料150万円 を例とする。

 

その計算は下記のようになる。

 

加工高工数売上=(600万円-150万円)/(4名×20日+80h/8)=5万円

                 *時間当生産性=5万円/8h=6250円

加工高工数売上目標達成率=5万円/4万2千円×100=119% ← 目標達成

 

併せて、全社員の各々の時間単価も啓蒙すると、生産性向上につながるかもしれない。    

月の給料が30万円の社員の場合

 

時間単価=30万円(給与)×1.6(賞与、法定福利費他)/160h(月間労働時間)

3000円 ← 1時間当たりの人件費

 

 社員には「あなたの1時間当たりの人件費は〇〇〇〇円になっています」とたまに話して、自分の「稼ぎ」を自覚してもらうことも必要ではないだろうか。

 もちろん経営者も自らの労働生産性を常に意識しなければ、Mr.Ghosnのように部下から総スカンを食ってしまうことになりかねないので、充分に心に留めておきたい。

 

 「世界には外人の豆腐屋が何十人もいる」のはご存じだろうか?

 大金持ちの資産を日本円にすると数兆円(丁)と、まるで豆腐を数えるように1丁2丁となることを揶揄したのだが、世界には1兆円以上の資産を持っている富豪が50人以上いるそうだ。最近の新聞には、「世界で最も裕福な26人の資産約150兆円(2018年)は、貧困層の38億人が持つ資産と同じ」と載っていた。

 その記事を見ながら、彼らにとっての「労働生産性」とはどのようなことなのか、夕食の湯豆腐を突っつきながら思ってしまった。