第113回 新西蘭見聞録 〜NZの人と動物〜
新西蘭とはニュージーランド(以下NZ)の漢字表記である。
1980年代に日本でまだNZの漢字表記がなかったころに、どのような字をあてるかという論議がされた。
NZは牛乳の輸出大国でもありニュージーランドのニューは乳のにゅうとも読めるので、「乳国」が良いのではないかと、当時のNZの在日大使がだいぶ乗り気になったそうだ。しかし、結局は乳には別の意味もあるということもあってボツになったという。
各国の漢字表記がアメリカは亜米利加、ロシアは露西亜、イギリスは英吉利、フランスは仏蘭西、ドイツは独逸など等。したがって日本の偉い人や高貴な人がそういう国を訪れる時は、訪米や訪露や訪英などというが、もしNZが「乳国」になっていたら訪乳などということになり、耳だけで聞いたら勘違いしそうである。
このNZを旅した時に私が見聞きして興味を持ったことを書いてみた。
新西蘭の国民事情
NZは人口が490万人と日本と比べるとだいぶ少ないが、国土の面積は7割と一人当たりははるかに多く、欧州系は70パーセント強で残りをマオリ人やアジア系が占める多民族国家である。確かにアジア系の人達が、ホテルやレストランなどサービス業で働いているのがよく目につくので、どこの国の人なのか尋ねると「私は、インドネシア人。でも中国、インド、フィリピンなどmany manyいるね」とのことで、いろいろな国からきて働いているようである。
ウェリントンに行った時のこと、車窓を眺めている時にガイドが言っていた。
「アジア各国からの就労者は大変に多いです。特にタクシーの運転手はなぜかほとんどインド人なのです。外人ではないですが、客室乗務員スッチーはオカマつまりアッチーの人が多いのですよ、スッチーはアッチーの人ね」と自分で受けていた。アッチーの人は親切で気がまわると航空会社では評判が良いらしい。
日本では盛んに国会で外国人の労働者について論議されているが、NZでは外国人が10パーセントも働いており、特に深刻な問題もないようなのである。日本でも外国人に働いてもらいたいならば、そういう制度を見習って良い方向に行ってほしいと思う。
なお、NZの賃金については、平均収入 がNZ$50,000で税金が30%、最低賃金 NZ$16.5/Hである。例えば道路工事の旗振りは NZ$25/Hだが、どの職種も残業はほとんどないという。
ちなみにレートは1NZ$に対して75円であり、消費税は 15%と日本よりはるかに高い。
新西蘭の中国人
NZを訪れる観光客は年間に500万人、その中でも一番多いのはやはり中国人である。
ホテルのレストランでは圧倒的に存在感があるのはいいが、スプーンやトングなどを自分の皿に盛った後、ふたを閉めないでそのまま容器に入れっぱなしや、皿に大盛に食べ物を載せ、たくさん残し散らかした状態でテーブルを離れていく。
同行のツアー客に日本に帰化した台湾人の夫婦がいて、「自分たちは中国には観光しないことにしている」と言っていたので、そのわけを尋ねてみた。「中国は不潔だし、何を食べさせられるかわからない。おまけに、子供が食事のテーブルの上で小便したのを見ていやになった」との返事であった。
観光地や休憩の土産屋にも必ず駐車しているのは、案内板が中国語表記のバスである。ある果物屋に入った時のこと、ここは新鮮なフルーツやNZ産のキウイやリンゴなどのドライフルーツを扱っている。レジの近くのバナナ売り場に、中国人の中年の男が近づいてきて、房になったバナナに手を伸ばし掴み取り、いきなり自分のビニール袋に放り込んだ。そしてそのままトットと会計もせずにバスに乗り込んでしまった。
日本でも遭遇したことがない「万引き」の現場を目撃してしまったのである。店内は非常に混雑しており、店員に訴えることができなかったのが心残りであった。
個人がやったことではあるが、そういう「見つからなければよい」という考えは、我々日本人にはあまりないはずなので、「中国人は・・中国は・・」という思いが出てしまい、今回の旅を少し汚されたような気がしてしまった。
新西蘭の動物事情
NZは人間より羊の数が多いということは、だれでも耳にしたことがあるはずである。
以前には8000万頭いたが現在では3000万頭とだいぶ少なくなったが、それでも自国の人口と比べても6倍近く飼われている。
減少した原因は1頭を5年育てても、1万5千円にしかならず採算割れするという。羊毛用として飼育しても、毛刈りは1日に鋏で100頭 刈って25000円、バリカンで200頭刈っても3万円しかならず、利益も売上の3%しかないらしい。だから、今後も羊の数は減ることこそあれ増えることはないという。
羊の寿命はどの位かというと平均で7年だが、歯が悪くなり草を噛めないことが原因で死んでしまうという。ある学者が羊用の入れ歯を作って付けさせたら25年生きたというから、我々人間も入れ歯がなかったらあまり長く生きられなかったかもしれない。
NZは乳製品大国でもあるので牛も600万頭いるが、意外な伏兵は鹿であり、まだ5万頭ということだが肉はドイツへ、ツノは漢方薬として高値で中国へ輸出が増えており「鹿牧場」が今後は繁盛していくのではないかとガイドが話していた。
さらに、ポッサムという狐と狸を合わせたような有袋類の動物がいる。ポッサムはオーストラリアから持込みされたが、天敵がNZにはいないうえキウイやカカやケアなど飛ばない希少な鳥類やその卵を食べてしまうことで、害獣として扱われている。ガイドも「夜道にはよく出没しますが、目の前に現れたら是非轢いてください」と言っていた。
その生息数も3千万匹とも1億匹とも推定されているが、シロクマやアルパカと同じ毛の中はパイプ状の空洞になっていて、防寒には最適なので土産用にもたくさん売られていた。見方を変えれば、利用価値のある動物ということで、「害は益にもなるのだなあ」と改めて思い巡らした次第である。
今回は見聞きした事の一部しか紹介できなかったが、6日間の旅でバスに乗った距離は2100kmと東京仙台3回往復に匹敵する旅であった。
(付録)ニュージーランドのミニ情報
・伊藤ハムがNZ畜肉加工2位のアンズコフーズを2017年完全子会社
・国の人口が少なく税収がないので予算が少なく、18年間で作られたトンネルは1kmの長さの1本だけで、高速道路もほとんど整備されていない。
・フィヨルド地形のミルフォードサウンドは昨年9000mmのとてつもない降雨量