第104回 シニア徒然考

第104回 シニア徒然考

 「終活フェア」が盛況らしい。行ってみたことがある人の話を聞いた。

 その中でも好評な催しは「入棺体験」コーナーだそうだ。これは見本の棺桶に実際に入り横たわってみて、その居心地を試してみるという少しブラックな企画である。そのコーナーは終活フェアの中でもダントツに人気があり、いつも待つ順番の人達で列を作っているという。

 

 棺桶の種類が松竹梅かどうかは不明だが、3つの格の違いがあってそれぞれに試乗ならぬ「試し入棺」することができる。大概そのフェアには夫婦、それも高齢者が多く棺桶に入るのは夫がほとんどであるという。

 

 係員が「どなたが入ってみますか?」と案内すると、夫がおもむろにそしておごそかに覚悟を決めて入るのかどうかはわからないが、静かに横たわる。

 

 上を見上げると妻が夫を見下ろしており、「どうですか?」と声をかける。

 夫は「むむむ、なかなか居心地がいい」などと嬉しそうに言うそうだ。

 

 かように夫は無意識のうちに妻よりを早く旅立つことを、そして妻よりも早く入棺したいとの無意識の意思表示、妻は妻で夫に「お先にどうぞ・・」のパフォーマンスが自然と出るようである。

 

 シニアという言葉を調べてみると「年長者、上級生、上級者」とあり、ジュニアの反対語という意味だったが、最近では特に高齢者を意味することがほとんどであるようだ。

 ただ「ジジイ」とか「ババア」という言葉は、10代の子供達が20代の若者に向かってそう呼んだりするが、相対的な比較で20代が30代に発する場合もあるようだ。

 

 極端な話しになるが、私が旅行のツアーに行った時に70代の人に歳を聞かれたので、自分の歳を言ったら「まだ若いねえ・・」といわれてしまった。また、92歳で元気な方が80歳代の人に「若い人はいいよね・・」と真面目な顔で言った場面にもあったことがある。

 

 私の叔父は93歳だが1年前に免許を更新したというので、「そろそろ免許を返納しては?」と話したが頑として拒否、しかたなく「四つ葉マーク(高齢者マーク)は付けていますね」と言ったら、なんと「年寄りに見えるから付けるのはいやだ!」との返事。

 2008年から75歳以上はマークを付けることが義務化され、違反者には6000円の罰金が科されるようになったこともあり、またそれ以上に加害者としての交通事故が心配なのだが・・。

 

 タクシーに乗ったら少し運転がぎこちないドライバーに遭遇した。前の席のプレートを見ると、80歳を過ぎたシニア運ちゃんだった。

 少し不安になったので、その老ドライバーにさりげなく「運転手さん、やはり朝まで20時間とか運転するの?」と尋ねたら「1直で昼間だけ、趣味みたいなものですよ。」との答え。

 そのタクシーに乗っていて信号で止まったら、近くの路上で積み荷を動かしていた赤帽のドライバーがいた。彼は腰をエビのように曲げてスローモーションのようにゆっくりと荷を動かしている。こっちを向いたので、顔が見えたらタクシードライバーと同級生位の御年の老人であった。

 もちろん高齢者が車を運転するのは皆が皆危険だとは思ってはいないが、やはり事故を起こす確率は低くないので早急に対策が必要なのは間違いがない。

 

 歳をとるといろいろと体や顔が変化する。

顔には、ほうれい線やマリオネット線、 ブルドック線などいろいろな線が増える。

鼻毛、眉毛が変に増殖しなぜか耳毛なども伸びてくる、反対に髪はどんどん砂漠化し珊瑚が白色化するようになってくる。

首や肩や腕、腰、足などの可動範囲が狭くなり、痛んだりしてくる。

これらは外見上や自覚できる老齢化現象だが、なかなか止めるのが難しい。

 

 しかし、自分でわからないうちになってしまった体以外の老齢化、つまり心の老化は改めて自問すると食い止められるかもしれない。

 

 歳をとるとコミュニケーション、いわゆる「社会生活を営む人間の間で行われる知覚・感情・思考の伝達」がうまくいかなくなることが多くなってくる。つまり心の老化だが、次のような例がある。

 上から目線、人の言葉を遮る、自己中心的、愚痴ばかり言う、いつも不機嫌、感情がない、感情の起伏が激しい、電話で話す声が大きい等々

 

 これらは相手にとってはすぐにわかることだが、自分ではなかなか自覚しにくい。日常的にそういう態度をしていないかを振り返ることが肝要になる。

 

 今年の国会では「記憶にない」「覚えていない」「記録がない」という言葉が乱発されたが、若年性のアルツハイマーかもしれないので、関係者は脳ドックに行って精密検査することをお勧めしたい。

 

 高齢まで普通に暮らしている人、特に90歳過ぎてからの人は長患いしないで亡くなるという話をある住職に聞いたことがある。

 

 あるお婆さんは、風呂にはいつもは夕食前に入るのだが、その晩は就寝前にもう一度入浴したそうだ。家人が訳を尋ねると「体をもう少しきれいにしたくてね」との返事。翌朝にそのお婆さんは安らかな顔をして亡くなっていたという。 

 別のお爺さんの場合は、茶の間でテレビを見ていた時に家人がこたつを離れトイレに行きそこに戻ってきたら、居眠りしているように見えたが、近づいてみたら息をしていなかったそうである。

 二人とも90歳代の方で、その住職は「こういう例は,少なくないのですよ」と話していた。

加えて「90歳までなんとか健康に生き抜けば、そういう安らかな人生を全うできるかもしれないですね」とのお言葉に、また新たな目標ができた次第である。