第97回 役員の怪我 〜健康保険も労災保険も使えない!?〜
私が社内でけがをした時に「健康保険」「労災保険」のどちらも使うことができなかったことがありました。
40代の頃に事務所でパソコンを使って仕事をしていた時に、大変な事故に遭遇したのです。
座っていた椅子をもう少し前に出そうとして左手を椅子の下側にあて、ずらしながらヨッコイショッという感じでズンッと腰を落とした。すると突然に薬指が経験したことがないような激痛で、何事かとその指を見たら第一関節の先端がなくなっており、血がドクッドクッと湧き出るように流れていたのです。
椅子の裏側の可動部分がカッターのようになっており、そこに指を入れてしまったのがその惨劇の原因だったのです。
結局ようやくたどり着いた病院で椅子に挟まっていた指を医師に縫合してもらいましたが、数日後その指が壊死してしまい再手術して新たな指を作って、結局1か月以上の入院生活になってしまいました。
当初は健康保険で治療を受けたのですが、そのあとに業務中ということで病院に労災申請するように言われ、手続きをしたら「会社の役員は業務中の事故について労災は適用できない」ということになりました。
仕事中の事故なのに「健康保険」も「労災保険」も使えない、個人で払うにも手術費や入院費、治療費は自分で掛けている保険だけでは到底間に合わない、ということで結局会社にも負担してもらったのです。
そういうわけで少しくどいですが結論は次のようになりました。
労災保険は、労働者として事業主に雇用され賃金を受けている人が対象で、事業主・自営業主・家族従業者など労働者以外は労災保険の対象にならない。
それゆえ業務により負傷した場合などでも労災保険給付を受けることはできない。
しかも、健康保険は業務上の事故や通勤時の事故については、それを利用できないため事業主等はどちらも使えない。
しかし、中小企業では事業主は労働者と同じ業務に従事する場合が多いので「社員と一緒に現場の仕事をやっていて怪我をしたのに、それはないだろう‼」ということになる。それでも、労災保険も健康保険も適用されることはできないのです。
それではどうすれば良いかというと2つの選択肢が考えらます。
一つ目は、その業務の実態等により労災保険の適用を認めるという「労働保険特別加入制度」に入ることです。
特別加入制度とは、労働者以外うち業務の実態や災害の発生状況からみて、一定の要件の下に労災保険に特別に加入することを認めている制度です。
特別加入できる範囲は、中小事業主・自営業主・家族従業者等、一人親方、特定作業従事者、海外派遣者の4種に大別されます。
私としては、事業主相当の人とは「雇用保険に加入していない方」が対象と考えています。
また、この場合の中小事業主は常時300人(卸売業又はサービス業は100人、金融業・保険業・不動産業・小売業は50人)以下の労働者を使用する事業主ということになります。
ただし、中小企業が労災保険に特別加入をする場合は、厚生労働大臣の認可を受けた労働保険事務組合を通じて加入する必要があります。
この場合一般労働者と違って給付基礎日額によって保険料が増減することと、手数料が意外とかかるのでその上で検討したいものです。
この制度に加入しても注意したいのは、次の3点があげられています。
① 労働者として仕事をしている場合にのみ、給付が受けられる
② 申請書に記載した業務内容、業務時間内のみが、給付の対象となる
③ 夜間や休日に一人で仕事をしていた場合、給付が受けられない
二つ目の選択肢としては、「民間傷害保険」の加入を検討することです。
「特別加入制度」よりも割高になるかもしれませんが、当時は社労士との付き合いもなくその制度についてもよく知らなかったので、民間の保険に会社で加入したのでした。
当然に「官」の保険ではないので、最大のメリットは上記のような3つの縛りもないので、いついかなる時でも適用できるということです。
また、「特別加入制度」よりも給付までの期間が数日と短いことも利点になります。
両方とも一長一短があるので、いわゆる経営者という役員の人数や従業員数なども参考にして、社会保険労務士と相談して検討することが重要になります。
「転ばぬ先の杖」ではないですが、私のように体も痛い、懐も痛い結果にならないように、思いがけないところに「危険」がありますので努々対策を怠らないでいただきたいと思います。
※ 労災保険についての過去の関連ブログ
2017年6月19日53号
震災から学んだ労務管理 ~就業後社内でスマホゲーム、構内で怪我は労災?~