第52回 震災から学んだ労務管理 〜災害時のリスクマネジメント〜

第52回 震災から学んだ労務管理 〜災害時のリスクマネジメント〜

 最近は弁護士がラジオでCMを流すようになり、そのキャッチコピーは「過払い請求」に関わるものがほとんどだったが、時々「労働問題」などで未払い残業代に取り組むというCMを耳にすることも多くなってきた。また、大学卒の女子新入社員の過労による自殺という痛ましい出来事があり残業のあり方が世間の一大関心事になった。

 弁護士がCMを使うという是非はともかく、それで思い出したのが「東日本大震災」後に報道された1人1か月の残業代が30万円という事例だった。

 

 これは仙台市の隣のN市で、「2011.3.11」震災当月の3月分の市職員の超過勤務手当が1億6000万円と膨大になったため、当時の市長が半額カットして支給したら、市職員労働組合が猛反発して大騒動になったことがあった。超過勤務は1人平均約100時間、約30万円だったが、N市は半分にカットし約15万円を支払った。

 

 N市の超過勤務手当の前年までの実績は年間約2億円だが、1カ月でその8割になってしまったのである。

 そこで、市長は「震災で無収入の多くの市民がいるし、たくさんのボランティアが無給で働く。そんな時に市職員が、残業手当を満額受け取るのは市民感情として許されない」と削減した理由を話し実施したのだ。そこで労組側が異議を唱え県に訴え、N市側から未払い分の8000万円が翌月に支払われた。

 

 同様の例は多数あるらしく、あくまでも伝え聞いた話なのだが、ある介護老人施設で、震災直後から介護士などの施設の職員が1週間くらい泊まり込んで老人たちの世話をした。その後にそれに費やした多大な時間を施設側が超過勤務手当として請求され、大変に揉めてしまったとのことである。

 

 残業申請とその精算については、あいまいな社内待機は労働なのかそうではないのかとか、停電した時の手書きによるタイムカードによる残業精算申請の信憑性については、どういう体制にするかなどを考えておく必要がある。

 こういう震災時の例などは極端だが、会社としても従業員の時間管理については、きちんと就業規則や細則にうたわなければならない。

 

 災害時には従業員が無理して出勤した者と、災害だからと当然に出勤しない者をどのように扱うのか、どのように公平にするのかなどの問題も発生する。

 

 労働基準法上の「休業手当」にするか、それとも「休業補償」になるかは、その災害の内容などにもよるが、いずれにしても平均賃金の6割が公的には出る可能性がある。ただし、従業員が「有給休暇」を申請したらどうするのかなどの問題も発生するので、会社の財政状況や今までの事例などにもよるので、あとで揉めないように処置をすることが望ましい。ちなみに東日本震災時に私は理由はどうであれ震災時に休んだ従業員は、事前事後関係なく有給休暇は全部受理をした。

 

 また、災害時は会社の運営が長期間難しくなった場合に、会社としての再建の方針を極力早く策定し、従業員の解雇等のしかたとして、「休業」にするか「一時離職」にするかの一刻も早い処遇決定が必要になる。

 前述の他に、災害時には労働災害が発生するが、それには「通勤災害」と「業務上災害」があり、会社からの指示命令の仕方によりその判断が分かれてしまうので、一般事例を交えて次回にお話ししたいと思う。