第37回 パンダはチベット産? 〜ラサと成都でのこと〜

第37回 パンダはチベット産? 〜ラサと成都でのこと〜

世界で一番好かれている動物は、なんといってもパンダのようである。やはりパンダ好きの元祖はあの玉ねぎヘアーのおばさんであるが、なんでそんなにみんなに好かれているのかと考えると、たれ目のアイシャドーともっこりした体つきがぬいぐるみそのままということにありそうだ。

 

ただ本来のパンダの目は黒縁の10分の1以下で、本当に小さくいかに自然のメイクアップがすぐれていたということがよくわかる。テレビでもたまにお化粧のビフォアーアフターで、女性が驚天動地の変身をするのを見ると、人間というのは白地のキャンバスなのだと納得してしまう。バンダも素顔をさらすと、きっと風呂上がりの就寝前の主婦のような顔になってしまうことを確信するのである。

 

パンダの故郷は四川省の省都で1千万人ほどの人口を抱えた成都といわれている。私は10年ほど前に連休を利用して、その成都とチベットの首都ラサに行ったことがある。

 

両市ともいろいろな意味で世界の関心事になっているところであるが、最初に行ったラサは高度が3650メートルと富士山とほぼ同じ高地にあり、空気が大変に薄い。2日目の観光の時に後ろの方から「バタンッ」と音がして振り向いたら、同行したツアー客の女性が、立てかけていた木が倒れるように顔から地面に転がって失神していたのである。高山病は徐々に具合が悪くなる人もいるが、あとで本人が言うのには「突然に目の前が真っ白になって訳が分からなくなった」とのことであった。

 

チベット仏教寺院の最高峰であるポタラ宮をはじめ世界遺産が多々あるチベットは西蔵とも表される。寺院に入るとヤク(チベット高原に棲む牛の種類)のバターで作った蝋燭の灯りとその臭いと静寂さで時間がゆるやかに流れるようであった。そのバターに塩を入れて作ったバター茶は結構癖はあったが、なかなかにいけた味であった。

 

チベット人は非常に信仰心が厚く、心穏やかな民族であるが、街で目にする様子では漢民族に比べ服や履物など貧しいという印象を持った。物乞いもたくさんおり、バスに乗るときに汚れた着物を着た子供にズボンをつかまれお金を無心されたこともあった。

 

チベットに隣接した北インドには五〇年ほど前にダライ・ラマの亡命政府があり、北京オリンピックの一連のチベットの騒乱でも注目された。その出来事で思い出したのが、1997年に公開されたブラッドピッド主演の「セブンイヤーズインチベット」という映画である。その物語は実在のオーストリア人である伝説的な登山家ハンリヒ・ハラーが当時のチベットを舞台に若きダライ・ラマと遭遇した経験をもとにしたヒマラヤが舞台の一大叙情詩である。見終わった後になんともいえない心に残る映画だったのを記憶している。チベット人は現在460万人の人口だが、中国の侵攻によりそれが激減した歴史があるという。

 

四川省の西部でパンダの生息している地区は、もともとチベット人の領土で中国侵攻後四川省に併合されたとの話もある。それゆえにもともとパンダはチベットの動物で、その騒乱時に激減したともいわれている。パンダは現在野性が1800頭しか生息しておらず、同化政策によりチベット人も同じ歴史をたどっているのではと思ったりもする。

 

パンダは日本に中国から貸与されているが、以前にその代金が年間一億円と聞いて仰天した方も多いであろう。そういえば成都のパンダ研究所に行った時のこと、パンダが数十頭飼育されており、子パンダを抱っこさせてくれるということで、その料金が2万円と聞いて驚愕してしまった。ちなみに、群れで多く飼われているレッサーパンダは800円だったので、家族には「これは珍しいパンダなのだ」とうまくごまかすことができた。

 

本来はつぶらな瞳のパンダだが、絶妙なアイシャドーだけで人々に好かれるように、企業も知恵を絞れば、希少価値のある世の中から認められる存在になれるのかもしれないと思うのである。