第15回 「あっ」と「おっ」 ~相手を読む簡単極意~

 人間に最も近いといわれる密林に住む霊長類最大最強のゴリラは、ドラミングといって時々胸をドンドンとたたくパフォーマンスをするが、それは相手を攻撃するためにやるのではなく、自己主張やコミュニケーションの手段としてそうするのだそうである。自分よりも強い相手や格上の相手などに向かっては「アッ、アッ、アッ」と声をあげて全く敵意がないということを伝えるという。

 

 しかし、自分よりも格下の相手などには「オッ、オッ、オッ」といって受け流すというか、あまりその相手に対してほどほどに対応するということらしい。つまり、「あなたとは挨拶する仲であって、酒でも飲んで人生を語りあう仲ではない。」ということである。ちなみに、ドラミングは手を開いたパーで胸をたたくが握ったグーではやらず、子供のゴリラもやるそうである。

 

 オリンピックでもそうだが特にスポーツを観戦していると気付くことがある。バトミントンの高松ペアが16対19の絶体絶命の時に、観戦している日本側の応援の人達が、得点をすると「お~」と一斉に声をあげ、その前に何度か失点すると「あ~」と落胆の発声を応援団があげていた。

 

 試合は高松ペアの驚異的な反撃と粘りで勝利をおさめたのであるが、この「あ」と「お」の一字だけの違いがいろいろな場面で発声されていることをご存じだろうか。

 

 スポーツで野球などは特に顕著だが、9回裏ツーアウト満塁で逆転のチャンスに攻撃側の応援団はバッターが空振りすると「あ~」と意気消沈し、守備側の応援団は「お~」となる。逆に攻撃側がヒットやホームランなど打とうものなら「お~」と大声援、守備側は「あ~」と落胆の様相である。

 

 前回で少しとりあげた伊達公子がある試合の時に、観客は伊達が失点するたびに「あ~~」といっているのにいらだち、観客に向かって「ため息ばっかりッ」といって自分に負の応援をしているのをいさめたことも思い出す。

 

 日本人だけなのか万国共通なのかわからないが、特に日本人の反応が「あ」と「お」を頻繁に使っているような気がするが、それは我々がゴリラに似た本来は農耕民族で平和な争いを好まない人種なのかもしれない。外国人はあまりそういう反応はせずに、もっとボディーパフォーマンス系の野次や口笛やスタンディングオベーション(最近まで私は、英訳すると立ち作業を意味するスタンディングオペレーションだと思っていた)などで自分の意思表示をしているようだ。

 

 スポーツ以外にもいろいろな場面で耳にするが、サーカスや曲芸などのパフォーマンスでも空中ブランコが成功すると観客全員で「おーっ」といいピエロがわざと足を踏み外そうものなら「あーっ」と皆で声を出してしまう。受験などの合格発表や会社でのボーナス支給時、テレビでのクイズ番組、子供の運動会などあらゆる場面に「あ」と「お」に遭遇する。

 

 私たちが電話やスマホの呼び出しを受けた時に、あらかじめ登録していない相手が知人や後輩などだと「おっ △△君か?」という反応をすることが多い。しかし相手が先輩や知人でも一目置いている場合だと「あっ ○○さんですか?」という違った反応になる。

 

 もし、あなたがたまたま久しぶりに電話をした時に、かけた相手が後輩や年下であった場合に「おっ △△さんですか?」という反応をしたら、相手はあなたのことをどのように考えているのか、そして「あっ ○○さんですか?」といわれたらどうなのか?

 

 これを考察してみると、「あ」を思わず発してしまう時は、自分にとってプレッシャーや気づかいをしてしまう場面や不利不安定な状況に多いということ、「お」は比較的に楽な状況や物事がうまくいきそうな時に出る言葉のようである。

 

 あらためて考えるといろいろな思惑をめぐらしそうだが、その相手との付き合いを今後どのようにしたいのか、「おっ」のままでいいのか、それとも「あっ」になりたいのか、この一文字違いではあるがあまり悩まないことが肝要かもしれない。