第207回 「眠る、寝る、寝かす」を考える

第207回 「眠る、寝る、寝かす」を考える

災害やコロナ禍にあっても人間は必ず人間の3大欲求の一つである睡眠をとらなければなりません、そこで、今回は「眠る、寝る、寝かせる」について考えてみました。

 

30数年前のこと、ミスター半導体と呼ばれノーベル賞候補にも何度か名前が取り上げられた故西澤潤一先生の講演会に参加したことがありました。

西澤先生は東北大学総長や首都大学東京総長なども歴任され、眼光鋭くメリハリのある話しは定評で2回ほど聴講しました。

ある講演会の会場に行ったところ一番前しか席が空いておらず、「これはちょっときついなあ」と思いながら座りました。

やがて講演が始まりましたが、壇上の先生の顔は少し高いところに位置していて、上を見上げるようにしないと尊顔を拝見することはできません。

しばらくしたら同じ姿勢をしていたせいか首が痛くなったので、少しの間だけと頭を少し傾けて目をつぶりました。

自分では自覚していなかったのですが、いつの間にか居眠りしてしまい首がガクンッとした途端に目が覚めました。

さりげなく顔を上げると、目の前には講和をしながらも閻魔様のように目玉をカッと見開いた西澤先生が私を睨みつけているではありませんか。

 

その数年後に再び西澤先生の講演会に参加し、前回は大変失礼なことをしたと思いながら今度はしっかりと拝聴することができました。

 

一般的には「眠る」とは横にならなくとも意識がなくなった状態であり、「寝る」とは寝床やソファーなどに横になり、眠るためにスタンバイすることも含めてのようです。

前述のエピソードは「眠る」状態の「居眠り」ですが、前夜に十分に眠った場合でも午後に眠気が出ることが実験的に確かめられているようです。

言い訳みたいですが、昼食をとってもとらなくとも、食事を1時間ごとに等分して食べた場合でも、午後の特定時間に眠気が生じることが確かめられおり、午後の眠気は人類共通の生体リズムなのではないかと広島大学の林光緒教授が述べていました。

昼寝は疲労の改善や作業意欲,記憶、認知作業,運動技能の向上の効果があるそうですが、ただし20分前後が理想のようです。

さらに教授は「高齢者では,毎日昼寝をしている人は死亡危険率が高く,昼寝をしない人と比べて 1 時間昼寝している人は 3 倍,2 時間以上昼寝している人は 14 倍高いという報告もあります。また,1 時間以上昼寝している高齢者は,アルツハイマー病にかかる危険率が昼寝しない人の 2 倍になります。」とも提言されています。

 

若い人は眠った時間と寝床にいる寝た時間はほぼ同じ、ところが高齢者になると実際に寝た時間よりも寝床にいる時間が何割も多いということも最近知りました。

赤ん坊は20時間近くも眠りますが、10代になると8時間、20代から30代になると7時間前後眠るのが一般的だそうで、30代位までは「眠る」イコール「寝る」でバタンキュー状態が若い人たちなのです。

しかし、40代になると次第に「寝る」時間は「眠る」時間と徐々に乖離し、70代になると眠る時間は6時間なのに布団に入っているのが8時間以上というデーターもあります。

歳をとると「眠れない」のではなく「寝床にいる時間が長い」ということになり、早々と布団に入り悶々するのではなく、自分なりに眠りたい時間に床に就けば良いようです。

 

「寝かせる」という言葉にはいろいろな意味がありますが、真っ先に頭に浮かぶのは赤ん坊や子供を「寝かせる」ことですが、社会的にそして実生活でも「寝かせる」はよく使われます。

 

例えば食の分野で「寝かせる」ことが必要なのは、味噌醤油などの調味料、日本の漬物やキムチなどの発酵食品、ウイスキーやワインや沖縄の泡盛などの酒、パン生地やうどん生地、カレールーやシチューなど数え切れません。

私の好きな新潟の「かんずり」は、唐辛子と塩を使って最低4年寝かせたという調味料で「西の柚子こしょう」「東のかんずり」といわれるほどの絶品です。

 

企業の場合もたまたま儲かりすぎた資金は、すぐには用途を決めずに少し寝かせることにより事業や人財育成に活用できるのではないでしょうか。

仕事のアイデアや新規事業もある程度の期間を寝かせると、その欠点や改善点が見えてくることもありますが、あまり時間がかかってしまうと陳腐化や腐敗してしまうので見極めは重要です。

個人の場合でもテレビやラジオのショッピングで「本日限り!」や「○時間以内!」などと煽られると、つい購入したくなりますがその気持ちを寝かせてやり過ごして見ると、ほとんどの「商品が買わなくともいいもの」という経験をした人は多いはずです。

 

こんなことをパソコンに打ち込みながら午後の気持ちのいい時間に、少しウトウトしていたらキーボードに指が乗せたままで同じ字が、「******************」と何行にも並んでしまいました。