第155回 「If・・もしも」あの時

第155回 「If・・もしも」あの時

 「If」もしもあの時に違った選択していたらということは、普段思わないにしても誰にでもそういうことを考えることがあります。

 

 社長であれば、あの事業をやることを決断していれば・・、結婚して10年経った夫婦であれば、あの時に今の妻を選んでいなければ、あるいは夫にOK言わなければ・・、登山家であれば、あのルートを選んでいたら・・、汚職で捕まった役人であれば、あの金を受け取っていなければ・・、野球選手であれば、あの時にエラーしなければ・・等々の安堵と後悔の思いを巡らす時があります。

 

 私にも今までの人生を振り返ると、そういう出来事が少なからずあり、ある食材を食べた時に思いだすことがあります。

 

交通事故のIf

 20代の頃に宇都宮で仕事をしていた時のことです。まだ薄暗い早朝に営業所の所長と一緒に県外に行くために、会社の乗用車で国道4号線を北上していました。道路はあまり混んではおらず、前方にはアルミボディの大型トラックが走っており、後部座席では所長が横になって眠っているようでした。私はラジオの音楽を聴きながら、早く起きたということで少しボーっとしていたような気がします。

 左側に少し緩いカーブにさしかかった時のことです。前方の大型トラックがキキキーッと急ブレーキをかけて突然止まったのです。私は反応が少し遅れましたが、少し右側にずれながらなんとかぶつからずに止まることができました。

 ホッと胸をなでおろしたとたんに、ガッシャーンッという音と共にとんでもない衝撃が襲ってきたのです。なんとか車から這い出すと、後ろから10トン積載の大型トラックに追突されて、乗用車の前後がクラッシュし前後のガラスも全部なくなり、ドアや天井も波うっていました。大型トラックに挟まれサンドイッチ状態になってしまったのです。

 背広の胸ポケットには砕けたフロントガラスのかけらが幾つも入っていました。後ろにいた所長は「何事だ‼」と言いながらドアを蹴飛ばして開けながら出てきました。

 不幸中の幸いは、所長は後部座席で完全に横になっていたのと、私は重心を低くして頭をしっかりとシートに付けていたおかげで、二人とも手足に少しのかすり傷だけで済んだのです。

 

 「If・・もしも」所長が後部のシートで横にならずに座っていたら、私が普通の姿勢で運転していたら、そして車を前方の大型トラックの後ろにまっすぐ止めていたら、と思うと思わずぞっとしてしまいました。

 乗っていた乗用車は大破でスクラップ工場行きとなり、ぶつかってきたトラックの運転手は少し居眠り運転したようで、車から降りてくるなり放心状態で「やっちまったと思いました・・」と我々に謝るよりも先に安堵ともいえる言葉を吐いていました。

 

病気のIf

 30代後半の頃、やはりこの年代は忙しすぎてもう一人自分がいればと考えたくらいの時代でした。

 当時やたらと疲れやすく少し熱もあり長引いているので、近所の内科医院に足を運びました。そこの医者はだいぶ高齢でどういう症状でも同じことを言うのは分かっていましたが、手っ取り早いということで飛び込んだのです。

 医者は私の口を開けさせて喉をヘラで舌を押し付けながら「喉が赤いね。風邪だから薬を出しときます」と案の定風邪と云うのです。やはりと思ったのですが、処方された薬を飲みながらつらい体で仕事をしていました。

 しかし、症状は良くならず食欲がほとんどなくなり小水がオレンジジュースのような色に変わってくるし、周りの人には「なんか体が黄色いよ」とも云われたのです。1週間たってもますます体調がよくならず体重が5キロも減ってしまい、家族からは「白眼の色がおかしい」と云われ、鏡を見たら白眼が卵の黄身のようになっていたのです。

 あわてて市立病院に駆け込んだところ、先生に恐ろしいことを云われてしまいました。

「γ-GTPが1000以上ある。急性肝炎です。もう少しほっといたら死んでしまうかもしれませんよ。すぐ入院です‼」

 それから1か月間の入院生活になりましたが、私が退院後の数年後に劇症肝炎で亡くなった30歳代のいとこがいました。

 

 「If・・もしも」市立病院で診断を仰がなかったら、そのいとこのようになってしまったかもしれないと、「今でいうセカンドオピニオンをして良かったなあ」とつくづく思ったのです。

 

 私の例は命に係わる「If・・もしも」でしたが、そういう事例でなくともこのような「たら・・、れば・・」は冒頭に記したようにどのような人にもたくさんあるはずです。

 

 特に鱈やレバーを食べた時に思いだすのは私だけなのでしょうか・・