第126回 苦労した手形 〜台風、お産、七夕手形〜

第126回 苦労した手形 〜台風、お産、七夕手形〜

 約束手形で御苦労されたことは、あるでしょうか?

 

 私は、以前にも書いたことがありますが、不渡り手形で大変に苦労したことがありました。昭和40年代の後半に父が経営している会社が、上場していた大手取引先の倒産で大変な状況になっていると聞き、外国を放浪していた私は家業に戻ったのです。その時に初めて、取引に比べ不渡り手形の金額が多いのは、融通手形のせいもあると知ったのでした。

 

 実際にはお互いに同額面の手形を振り出し合う交換手形のようでした。というのは銀行から突き返された相手会社の手形の額面は、百万円単位のあまりにも切りのいい数字が並んでいたからです。

 

 不渡り手形は3000万円以上あったと思いますが、そのうち1000万円位は融通手形だったようです。1000万円というと当時の1か月分の会社の売上でした。父親はその上場会社の役員の方に頼まれ、当時の売上の半分以上あった最大の取引先の申し出を断ったらまずいことになるのではと考えたらしく、やむを得ず首を縦に振ったようです。

 

 その会社は台所事情が火の車だったらしく、父の会社が振り出した手形はすぐに換金化されましたが、それでも焼け石に水で資金がつまってしまいバンザイしてしまったようでした。

 私は工作機械の商社に勤務したこともあり、一応手形の知識は持っていたので融通手形は依頼されても引き受けるのは大変に危険だということはわかっていたのですが、まさか父の会社がそれを振り出したということには大変なショックを受けました。

 

「融通手形」とは「決済を必要とする現実の商取引がないにもかかわらず、振り出される手形」とあり、実際には「金融機関から借入ができなくなった企業が、当座の資金繰りを行うために実施する資金調達手段」なのです。銀行では割引を依頼された手形の中に、融通手形が入っていたら当然その手形を絶対に割引きはしませんから、常に目を光らせていますが、それを判断するのはなかなか難しいようです。ただ見つけるためのそれなりのノウハウはあるようで、額面金額や振り出し先や記名判などから判断することも多いそうです。

 

 この経験から私は、10年後には会社の取引先には支払手形を振り出さないようにする、ということを心に誓ったのでした。目標よりも少しかかってしまいましたが、なんとかそれを実現することができました。具体的なやり方はまた別な機会にご紹介したいと思います。

 

 昭和50年前後には月末や支払日になると、小切手でも支払手形でも得意先に集金に行ったものです。中には5か月の手形もあり、末締めの翌月払いという支払条件から通算すると、現金化まで180日にもなってしまう手形もありました。

 

 それでも、当時は建築業界や他の業界などでは、「台風手形」や「お産手形」そして、「七夕手形」というとんでもない手形を発行する会社もあったようです。

 

 「台風手形」は台風が春分の日から210日目ごろに多いので7か月後の支払いとしたもの、「お産手形」は子供が生まれるまで310日かかるので、10か月後の支払いとしたもの、そして「七夕手形」とは七夕は年に1回なので12か月後に支払いを約束した手形です。これらを俗にそういう呼び方で揶揄したようです。

 

 現在では下請代金払遅延等防止法に関する通達で、手形サイトは原則90日以内と定められているはずなので、もし取引先からそれ以上のサイトの手形を出されたら交渉したほうが良いでしょう。

 

 手形にはその他に今はあまり流通していませんが、たまに「為替手形」というものがありました。この「為替手形」、手形の振出人自身が支払いをするのではなく、第三者に支払いを委託して、また別の受取人に対して支払いをします。つまり、A社がB社に支払い義務があり、B社はC社に支払い義務がある場合、A社が直接C社に支払うようにした手形です。その仕訳は簿記の試験にも出題されるほどなので、少し複雑ですが知識として知っておいたほうが良いかもしれません。

 

 海外ではあまり使われていない支払手形ですが、中小企業が大企業と取引する場合でも一般的に使われています、そこで私からの提案です。

会社が上場する場合は資金調達力が急激に上がるわけですから、当然資金繰りが楽になるはずです。

 

 その上場条件として「中小企業と取引する場合は、現金で支払う」と法的に決めてもらえれば、中小企業は支払余力が出ておまけに割引料も負担することがなくなるので景気も良くなるのではないかと考えますが、いかがでしょうか?