第100回 中堅社員の定着化「あの手この手」前編

第100回 中堅社員の定着化「あの手この手」前編

  車を運転しながらラジオを聞いていたら、就職が決まった学生へのインタビューが耳に入ってきた。

今年社会に出る予定の男女に「会社に入るにあたり、あなたの座右の銘は何ですか?」とアナウンサーが質問をした。

 男子「弱肉強食!」と言い放つ、女子は「他力本願です!」、一瞬アナウンサーが言葉に詰まり、「どういう意味ですか?」と尋ねたら、口が滑ってしまったからか少し言い訳はしていたが、私はハンドルを握りながら思わず脱力してしまった。

 

 世の中の人手不足感は相変わらず逼迫することはあっても、治まる気配は微塵も感じられない。もちろんその「人手」には、手伝い、補助、応援、補佐、助勢など等が多く含まれるが、本音は「海星」のように5本以上の手であらゆることを片付ける人材が欲しいのではないだろうか。

 

 管理もできそして多能工の社員、いわゆる「中堅社員」は社長にとっては絶対に手放したくないし、そういう社員を増やしたいとも切に願っているはずである。

 

 すぐにも欲しい「人手」は単能工であることがほとんどなので、もちろんそういう「人手」も集める手段を講じながら、同時に会社の宝でもある「中堅社員」を少しでも増やし、かつ定着化するかもしれない方策を考えてみた。

 

社内巡回

 社長のほとんどの方は日常的に社内を廻って、社員の心身の健康状態や職場の生産性や安全性などに気を配っているはずである。そこで、社内を歩く前に重点的に声をかける社員を決めていた方が良い。

社員の人数が多くなってくると、社長は面接した当時のことを忘れてしまっているかもしれないので、事前に該当社員の履歴書や社員台帳を見ておき、誕生日、趣味、特技、家族のことなども頭に入れてから廻るようにする。

 私が社内を巡回した時のこと、あらかじめ頭に入れたデータをもとに、「A君!君のお父さんは今年役所を定年退職したのかい?」。

 するとA君は「そうなんです、父は少し休んだようですが、次の仕事は見つけているみたいです。」と元気よく返答してくれた。このA君は今では幹部社員として会社の要として頑張ってくれている。

 また、数年前に入社したBさんに「今度の会社の忘年会の時には、得意のラッパを吹いてもらえないかな?」と声をかけた。

 彼女が高校の時にマーチングで活躍したことを知っていたからである。残念ながら恥ずかしいからなのか吹いてもらえなかったが、自分の一番の好きなことを言われたのが相当嬉しかったようだった。Bさんは、職場の仲間を率先してリードしてくれていたが、その後はめでたく寿退社となった。

 

「さん」付け

 明治時代に嘉納治五郎によって創設された講道館では、人格者としての嘉納の提唱により、先に入館した先輩であっても後輩が自分より年配者であれば、先輩は後輩に「さん」付けをしなければならない。反対に後輩は先輩が年下であった場合でもやはり「さん」付けをする。

 この習慣を徹底することにより、お互いを尊重する講道館一体の精神が培われた要因の一つにもなっているようである。ただし、嘉納は誰に対しても分けへだてなく、「さん」と呼んだという話もあるようだ。

 すなわち、「礼には礼をもって返す」を実践することにより、社内でもコミュニケーションが良くとれるようになっていく、「上から目線」や「先輩風を吹かす」、「相手を見くびる」などは厳に慎むようにしたい。

 

 

 今年は東北楽天野球団が12球団ダントツで低迷しているが、昨年調子のよかった時に新人ではあるが社会人野球から入団したセットアッパーのC投手が、度々インタビューに応答していたことで気になることがあった。

 

インタビュアー 「C投手!今日も見事なピッチングでしたね。」

C投手 「Dを助けることができて良かったです。」

 

 D投手とはC投手よりも数年前に球団に入り年齢は下はであるが以前から活躍している選手、ちなみにC投手はもちろんプロ野球の経験は初めてである。

 C投手は昨年後半にはあまりパッとしなかったようだが、その後もテレビに出てくると相変わらず、自分よりも年下の先輩選手複数を何度も「呼びすて」にしていた。

 

 そして、C投手は今年も活躍が大変に期待されていたが、現在では1軍の試合で彼を目にすることはなくなった。

 

 (中堅社員の定着化「あの手この手」後編)に続く