第93回 「表と裏」雑考 〜自分の背中を見て考えた〜

第93回 「表と裏」雑考 〜自分の背中を見て考えた〜

 首が普段の半分しか回らなくなり、おまけに後ろに少し倒しただけでゴキッグキッと音がする。知人で首の頸椎がおかしくなり、手術をしたらあまりよくならずにしばらく経ってから亡くなった方がいたので、そうなっては大変と思い近所の鍼灸接骨院に飛び込んだ。

 そこの30代後半の若い院長に首を揉まれながら、「ずいぶんと硬いですね。こんなにも硬い人はめったにいないですよ」といわれ、「ジム通いをやっているのでそのせいで筋肉がついたのでは?」と反論。「筋肉と硬いは別ですよ」と諭されおとなしく上半身裸になり、鍼をうってもらうことになった。

 自分が鍼をされたのを見たことがないので院長に「どんなふうに鍼をうっているのか見たいのですが・・」と言ったら、「スマホで撮ってラインで送りますから」とのこと。

 

 帰宅してからラインで送られた画像を見て驚愕仰天してしまった。

 

 針供養の時に服飾学園の生徒たちが豆腐にブスリブスリと刺したように十数本の鍼が首や肩に刺さされているのにまずたまげてしまった。さらに自分の背中をスマホの超解像度の画像でリアルに見てまたショックを受けてしまった。

 自分の背中をこれほどまでに客観的に見たのは初めてである。もちろん後ろを振り返りひねった状態で鏡を見たことはあるが、自分の素肌の背中がシミやらホクロやらキズなどでこんなに傷んでいるとは想像もしなかった。経年変化いや経年劣化とは本当に残酷なものだなあと、自分の背中を見てしみじみと感じた次第である。

 

 人間の体の「おもて」は随分といろいろな部品がついていてにぎやかである。「おもて」である顔には目眉毛鼻口耳、それから首から下にもチチやへそやアレなどもついているが、「うら」の重要個所はなんと尻の〇〇モンだけである。

 改めて考えるとそれだけ表と裏とは極端な違いがあり、常に裏は表と差別され虐げられている。裏方はいつも表に顔を出すことはないし、駅裏というと寂しくうらぶれた感じだし、裏稼業や裏社会は人様にはいえないようなうさんくさい「仕事」関係だし、裏金は悪い意味での忖度に関わる日の目を見ない現ナマである。

 

 しかし、「表」と「裏」ではなく「前」と「後」と考えてみると少し様子が違ってくる。

 高倉健や鶴田浩二は前だけではなく後ろ姿でもいい仕事をしている。彼らの「男の後ろ姿」や「背中」にしびれたファンは数限りなくいるだろう。男気や力強さ、決意、覚悟そして悲壮感や哀愁までその後ろ姿は喜怒哀楽すべてを語っていた。

 昔の男たちは「親の背中を見て子は育つ」とか「背中を見るな、背中を見せろ」などといわれ、後ろや背中や見えない所などにも気を使っていたのだ。

 しかし、最近は正面やみてくればかり大事にしてそれ以外をおざなりにしている風潮が多いようである。

今や男が美容院に行くのは当たり前で、男用の乳液や化粧品などたくさん売りに出され、それらを持ち歩いていることも珍しくないという。おまけに毛深いと女性にもてないので脱毛クリームのお世話になっている輩もいるらしい。

 風呂は入らず朝シャンだけですませ、髪はつんつんとハリネズミが威嚇したのか、針の長いガンガゼウニかを連想させるように逆立てており、毎日の髪の手入れが大変なのではと他人事ながら考えてしまう。

 若い女性も見てくれは良いのだが、ミニスカートやホットパンツ姿で歩く姿がスターウォーズの戦闘ロボットか、草原を歩くダチョウのような歩き方をしていて、「残念!」という女性も少なくない。もっと姿勢を良くして脚を延ばして颯爽と歩けばいいのに、前のめりや肩を丸めたりして歩くのはまだその年齢には似合わないと思うのだが。

 話題が少し横道にそれてしまったが、企業に見学に行くとその会社のトイレを見るとよくわかるといわれている。トイレがきれいに管理されているか、社内だけでなく会社の裏や後ろがどういう状態になっているかでも、その会社のことをある程度判断することができる。

 

 このように人も企業も見えないところにも十分に配慮をするということは、もしかすると表や前以上に価値や存在感を出すことができるのではないだろうか。

 一度家族や社員の後姿を撮ってみたら、もしかすると意外な発見をするかもしれない・・・