第23回 フィリピン国酔夢譚 ~在留して学んだこと~

 フィリピンで工場を立ち上げようと準備していたころ、高速道路を走っているときに中央分離帯を挟んだ対向車線の方向から「ガタン!!」と音がしたと思ったら、なんと大型自動車の車輪がはずれて私の乗った車めがけて飛んできたのだ。急ブレーキをかけた私たちの車のボンネットスレスレに大きな車輪がゴーッと音を立てて横切っていき肝を冷やしたものだ。これが驚きの国フィリピンでの最初の洗礼だった。

 

 

・銃社会?

 銃を持つのは許可制だがある程度簡単に手に入る。会社には必ず銃を持った警備員が門番として常駐しており、ホテルやショッピングセンターで見かけることも珍しくない。会社が入っていた工業団地内の銀行では、警備員に銃を向けられたこともあったし団地内を銃を持ってうろついている輩もいたらしい。又、知人の工場の門の前で発砲による殺人事件があったりした。ただ一般の発砲事件などはアメリカに比べてだいぶ少ないようだ。

 

・お金を貸したら戻ってこない?

 日本人に対しては、ローカル社員から「家族が病気なのでお金を貸してくれ」などといわれるがほとんど戻ることはないし、比人に日本人がお金を貸して返さないので催促したら、警察に麻薬を持っていると通報されて刑務所行きになったという話しも聞いた。借金をしている社員も多く、貸してもらった業者に自分のcashカードを預けていて給料日にも現金を手にすることができない社員もいた。空港内で財布を拾って届けた清掃員が表彰されたというニュースが新聞に載っていたこともあった。

 

・信じられない事件事故!!

 空軍の小型飛行機が団地内の工場に墜落したが、その企業の死亡者は一人だけ、パイロットが恋人に訓練の雄姿を見せたかったのが原因との説もあった。

当社の派遣社員が通勤中にトラックのひき逃げに会い死亡し、ドライバーは車を置いて逃走して行方不明。労災となったがそれの補償は十数万円、会社での保険金は支払われた。

知り合いの商社の社員が自宅まで100メートル足らずの場所で、強盗に遭遇し手を刺されたが、日本に帰国し入院したがめげずに再度訪比して元気に働いていた。

 

・男は怠け者、女は働き者?

 私が在籍していた会社は業務内容が、日本と同じだが働いている男女の比率が逆転して70%以上が女性であった。管理者になると仕事の手を抜いて楽にすることを考える男が多い。女性は妊娠しても臨月まで働くので会社でマタニティー用の作業服を用意するほどである。ほとんどが帝王切開で子供を産むが1か月足らずで会社に復帰してくる。ちなみに、150人ほどの社員が在籍していたがいつも誰かがお腹を膨らましており、シングルマザーも数多くいた。浮気な男はパロパロ(花から花へ飛んでいく蝶々の意味)といわれ、女性が身ごもると逃げていく男も多いようだ。

 

・社員はやめさせられない?

 社員は雇ったらやめさせるのが難しいので、6か月の試用期間後に辞めさせるか、派遣社員を雇う会社が多い。共産系ゲリラのアブサヤフ系の組合を作られたら大変なことになるので、正社員の比率を半分以下にする企業が多くを占める。韓国系の会社でそういう組合ができて大騒動になり、会社をロックアウトして収拾がつかなくなり、経営陣がヘリコプターで脱出したという話しを聞いたことがある。

 

・殺人事件が多い?

 フィリピンは人殺しが多く治安が心配と懸念する方がいる。確かに「1万円から殺し屋を雇える」とか「歓楽街では数メートル歩くと強盗に会う」とか「クラクションを鳴らすと追いかけてくる殺人団」の話しも耳にしたが、ほとんどが噂の域を出ないようだ。日系のマニラ新聞を見ても日本では毎日のようにある殺人事件やストーカー事件などはほとんど目にすることがない。特に家族など親族間の陰惨な事件は皆無である。ただ、日本の暴力団の絡みの事件や日本人の男と比人の女の痴情のもつれの事件はたまにあるようだが・・・

 

・フィリピン人の笑顔

 比人の大半は貧しいといわれ、一般家庭では燃料代がもったいないので湯が出ないシャワーが大半だが、老若男女みんなホスピタリティー精神を持っていて、特に笑顔が素晴らしい。ある厳しいといわれる会社の日本人の方が工場に視察に来た時に、すれ違う社員が全員笑顔で目礼をしていたら、「挨拶で手を休めるなら、しなくともよい」旨の話しをされたが「?」と思ったものだ。

 

・クリスマスは4ケ月間?

 比人の一番好きなイベントはクリスマス、9月になると街の明かりもクリスマスに向けての衣替え、Septemberから始まるDecemberまでのberのつく4か月間は人々は心浮き浮きである。企業間のクリスマスプレゼントも盛んで玄関内にあるクリスマスツリーの下には、贈られた電子レンジやテレビなども含めたプレゼントが山積みになる。

 会社では社員たちが仕事よりもクリスマスパーティーに向けての踊りなどの練習に一生懸命で、クリスマスパーティー当日は社員全員がプロ顔負けのエンターティナーと化し、最低4時間以上にもわたるショータイムが開催される。その余韻は町の飾りつけなどが翌年1月いっぱいまで尾を引いているのを見てもよくわかる。

 

 

 前記に列挙したのは、私が経験したことや比在住の親しい方から聞いた話ですが、私個人としては、訪比歴が13年以上あるが危険な目には冒頭以外一度もあったことがないことを申し添えておきます。